劇場公開日 1979年12月15日

「脱獄ではなく、“出て行く”という決断」アルカトラズからの脱出 ao-kさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0脱獄ではなく、“出て行く”という決断

2020年6月14日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

脱獄不可能と言われたアルカトラズ刑務所からの脱出劇ではあるが、銃撃戦や逃走劇といった派手さはない。それなのになぜこれほどまでに手に汗握り、胸が熱くなるのだろうか。実話ベースのこの物語でドン・シーゲル&クリント・イーストウッドという名コンビが取った作戦は人間の尊厳に重きを置くことだった。

これはプライドが高いという意味ではない。主人公モーリスはかなり高いIQの持ち主であり、劇中における彼の言動は模範囚そのものと言って良い。自ら喧嘩を売ったり、看守に悪態をつくこともない。理不尽な理由で独房に入れられようとも、彼はその後も穏やかに服役する。そんな彼がなぜ脱獄を図るのか?

『大脱走』『パピヨン』『ショーシャンクの空に』など、脱獄系映画には名作が多いが、これは誰もが抱く自由への欲求という普遍的なテーマがあるからだ。だが、本作で特筆すべきな点はモーリスがこの刑務所、そこにいる看守、所長らを見限って“出て行く”という選択をする点にある。恐らく、彼がそのことを本気で決意するきっかけとなったのは中盤のいたたまれない出来事にあったのではないだろうか。人の生き甲斐を奪うこと、その尊厳を踏みにじることが、どれほど大きな罪であるかを問いかけてくる。それ故に脱獄成功者ゼロを誇るこの刑務所から脱獄することこそが、彼らへの最大の復讐であると言わんばかりに、計画は静かに淡々と進み、我々はこの脱出の成功を終始祈るようにして見てしまう。

実話に基づくということもあるが、迎えるラストのカタルシスは絶妙な匙加減と言えよう。1963年に閉鎖され、今や映画にも登場する機会も減ったアルカトラズ刑務所であるが、『告発(95)』と合わせて鑑賞するのも良いだろう。ついでに全ての鬱憤を吹き飛ばす『ザ・ロック(96)』もお忘れなく!

Ao-aO