「狗神家の一族」狗神 INUGAMI 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
狗神家の一族
『死国』と同じ坂東眞砂子による小説の映画化で、四国を舞台にその土地に根付く伝承と悲劇を描いた2001年の作品。
こちらも当時大ブームのJホラーの一本として製作されたが、『死国』がそうであったように、いや『死国』以上に、ホラーというホラーではない。
官能と愛憎のサスペンス。
高知の人里離れた閉塞的な村。山奥の工房で紙漉きで和紙を作る美希。
10代の頃そうとは知らずに実兄と関係を持ち、妊娠するも死産。そんな暗い過去が、まだ40ながら白髪交じった姿を物語る。
以来恋も人生も諦め、紙漉き業だけを黙々と、独り静かに暮らしてきたが…。
ある日、小学校の教師として赴任してきた若い青年・晃と出会い、親子ほどの歳の差にも関わらず、愛し合う。互いの身体が欲するまま、工房で逢い引きを重ねる。老け込んでいた美希も艶や若さを取り戻していく。
時を同じくして、村で奇怪な出来事や不審死が起こり、村人たちは原因は美希の一族だと噂し始める。
美希の一族=城之宮家は、“狗神憑き(=犬霊の憑き物)”としてこの土地では知られ、特に一族の女は“狗神筋”と呼ばれ、怖れられ忌み嫌われている。
日に日に村人からの城之宮家への差別は強くなり、遂にある事件が…。
一族内でも愛憎渦巻き、美希と晃にも悲劇的な関係が…。
一応時代設定は現代だが、この土地だけ時が止まり、周囲から孤立し、取り残されたような異様な閉塞異空間。
その中で、古臭く、忌まわしい風習が人々の身体に根付いている。
村八分、差別…。呪われた血筋…。
ある一族の愛憎と悲劇…。ドロドロとした人間模様…。
ホラーと言うより、横溝ミステリーのようなおどろおどろしい世界観。
そんな作品にこそ、哀しく美しいヒロインは映える。
天海祐希の美しさ。
序盤の白髪交じりの老け風貌はちと無理あるが、若さを取り戻してからは虜になるほど惹き付けられる。
最近は姉御肌やコメディ多く、今となっては貴重な官能的なシーンや濡れ場を拝め、“悲劇のヒロイン”としても魅せる。
渡部篤郎の快活な青年もさることながら、クセ者役者たちの怪演。中でも、深浦加奈子と山路“ジェイソン・ステイサム”和弘がインパクト放つ。
時折姿を現す美希の母。実は一年前に亡くなり、美希にしか見えない。
美希と晃の関係。実は晃は美希と実兄の子で、二人はそうとは知らず関係を…。
意外性や衝撃の真実を狙ったのだろうが、薄々察しは付く。
近親相姦、無理心中や集団自決、古めかしい習わしなどタブーを描き、後味悪いとは違う陰湿さ故、人によっては受け付けられないだろう。
全体的に、分かり難く、伝わり難い点もあり、作品としても今一つ優れない。
重厚感たっぷりに演出すれば、KO級の作品になったかも…?
時々センスや感性が外れる原田眞人監督だが、純伝奇和ホラーを撮りたかったのか、横溝ミステリーのような“狗神家の一族”を撮りたかったのか、ただ艶かしい天海祐希だけを撮りたかったのか、今となっちゃ謎が残る。