煉獄エロイカのレビュー・感想・評価
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白日夢の迷宮の乱反射
子供の頃から宣伝用のスチールが、脳裏に焼き付いていた本作。
やっと本編を観ることが出来た。
やっぱりスクリーンじゃないとダメだな。
それにしても、あのオープニングからラストに至るまで、ありとあらゆるショットの異常な迄のカッコ良さ!本当に尋常じゃない。
あんなスタイリッシュな映像美、なかなか御目にかかれるモノじゃない。まさに国宝級。
映画史的にもブッチギリの最高水準!
これほどまでにシュールリアリズムな時空間を完璧に現出できた映像など他に見た記憶がない。
お馴染み、あの意味ありげな日傘のショット(もうトレードマーク?)も登場する。
やはり岡田茉莉子が、なんとも危うく蠱惑的。
音楽の一柳慧は、もっとエッジの効いたエクスペリメンタルなのも出来たと思うが… ここは、ちと残念。
森英恵は、今回もエレガントに冴えている。
ストーリーは、まるで主人公たちの夢の中(煉獄?)を迷宮さながらグルグル巡っているかのようで、先鋭化した観念の白日夢でも見ているような感覚に迷い込む。
夢のように、現実的な辻褄など無縁のようで、茶番劇の様相も呈している(素人役者は勿論のこと、岡田茉莉子の夫役も、ずっと棒読みで、どこか道化師のようにも見えてくる)
まあ、その辻褄もパズルの如く合わせていけば、合わせられなくもないのだが…
1970年のある日、夫妻それぞれが抱えていた「過去」の出来事が表面化して、二人それぞれの過去を追体験しながら、互いの罪やトラウマをなぞっていく。さながら煉獄のように彷徨いながら。
夫の過去は勿論、1952年(サンフランシスコ平和条約の発行)のテロル活動だが、妻の過去は、おそらく子供だと言いよる娘によって投影されている。
その娘のアユは、冒頭、白い螺旋状のスロープ(このショットも超絶カッコイイ!)から地下へと落下する(ジャンプショット←ココがポイント)
それを目撃してしまった岡田茉莉子が演じる妻の夏那子は、その瞬間、自身の別人格として「アユ」という想像の産物を産み落とすことになる(実際に後半のセリフで、それが明らかになる)
そして、記憶の中にいる人々が(全く何の説明もなく)入り乱れた時間や空間の中に登場しては、1970年のテロ・グループ(1952年と類似したテロを実行。やはり裏切りにより壊滅するがイデオロギーは不明)も乱入する中、真実が明かされ(この真実も登場人物により異なる)
主人公の二人が抱いている都合の良い希望(1980年の未来)も含め、白日夢のような時空が展開される。
シャッター、ドア、地下鉄の通路などが、時間や空間を交錯させるインターフェイスとして、繰り返し使わるが、これらのシーンが、本当に超絶にカッコいい。
(全てのロケ先が知りたい!しかし当時のまま残っている場所など、もう殆どないか…)
勿論、タイトル(このセンスも凄い!)にある通り、当時の革命運動(という名のゲーム)のヒロイズムもニヒルに批判される。
レーザー光線応用技術の開発というのも、意味のないマクガフィンとも思えないので、何かのメタファーに違いないが…
しかし、結局のところ、そのメタファーを明示させるシーンは見当たらない…
レーザー光線といえば、共同脚本の山田正弘が手がけていたウルトラマンのスペシウム光線を思い出してしまうが…
やはり、ただのマクガフィンなのか?
と、まあ、そんな訳で、過去も現在も未来も、空間も、さらには登場人物たちの役割さえも、縦横無尽に入り乱れるという、なんとも複雑で混乱必至の独特の観念が錯綜するストーリー。
謎な展開も観る側が、そのプロットを類推する他なかったりする。
実際、観ている間は、ほぼほぼ茫然状態…
しかし、なんだかんだで、結局のところ、あの超絶カッコいいカメラワークで最後まで魅せられてしまう。
そのラストも本当にヤバイ。
意表を突いて浮かび上がる”Dead End”の文字が、当時の左翼運動の行き先を暗示している…
当時1970年にリアルタイムで観てたら、ゾクっと鳥肌が立ったに違いない。
しかし、やはり最大の謎は、岡田茉莉子の最後のセリフ。
煉獄という世界(あるいは虚像)を作り出した「創造主」を打ちに行くということ?
実際あれは一体、何を意味していたのだろう?
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