「夜空に嘆き青空に惑う」竜二 redirさんの映画レビュー(感想・評価)
夜空に嘆き青空に惑う
映画館のスクリーンで観れた。
すごい映画だな。
金子氏すごいな。
いきなり冒頭に金子氏の死が告げれ、そこから、キレキレのイケメンヤクザ竜二、かわいい子分たちとのやりとり、、夜の街、、画面からナイフの刃先のような緊張感が溢れ出る。
タクシーで、夜の繁華街クルージングするシーンもめちゃくちゃカッコいい。
妻子は九州の実家にいき、ヤクザとしては絶好調。やばいことはやらない、ビニール本印刷を生業とする年配のおじさんとの会話、時代が変わりヤクザの収入源も変わってきて銀行員にヤクザが足元見られて舐められる時代。ヤクザとしてはそれでも絶好調だが虚無感に取り憑かれ金に飽きて心は妻子との暮らしへの憧れとなり、ヤクザからカタギ家族との生活を実現した元先輩ヤクザの料理屋夫婦のアドバイスをもらいに行く竜二。オラつく竜二も印刷屋の親父さんや先輩や子分と話すときの優しさが溢れ出てしまう竜二も、どちらも一瞬たりとも目を離せない眼光の輝き。妻子共に生きることとなり、新宿からそんなにとおくない中野あたりのアパートで、酒屋の仕事をしたりカメラを買い子どもの写真をとり貧しいくらしをやりくりする妻をねぎらい、腰を痛めるような酒屋配送の仕事でわずかな給金で、でもこの時代、ヤクザをやめて紹介でこんなふうにカタギの仕事につけて、2か月めには、少しお給料上げといたよと言って現金入りの封筒を渡される、当時はそんな風に頑張ってるやつに給金をあげるとか、人の社会の営みとして当たり前のことが世の中全体で普通にあっただろう。今ならあぶれ者が非正規労働に吸い込まれそうで、個人個性として関わりをもたれないのではないか、、、とふと思ったり。
シャブで失敗してる昔の仲間が金を無心にくる。もらったばかりの給与封筒がポケットにあるが財布の小銭しか渡せない。仲間は公園で倒れ、やがて死ぬ。
安アパートの窓を開け放ち、なんにもないなと新宿の街とはちがう静かで特筆すべきものはなにひとつない夜空を眺めて呟く。夜空を眺めているのか仲間が苦悶している公園の地面を眺めているのか。空を見上げて何もないとうそぶく竜二のみが映され、何もない空の方からのちっぽけなアパートのちっぽけなその窓そこに佇む竜二が、映され、何もない窓からの景色も夜空も、それは私たちには見えない。竜二が見ている風景は私たちには見えないところがすごいシーンだった。
仲間が死に、可愛い子分だった一人もやがて同じ道を行きそうなことになっていて、よりへなちょこだった方の子分が羽振りよくド派手なヤクザスタイルでアパートに遊びに来て、、、なんもない夜空大事な暮らし大事な家族だが野菜の値段に嘆息する生活、足を洗って酒屋で働いてるのにマウント取ろうとする仕事仲間にいらつき、なにもない夜空から心のバランスが失われていき、最後、いよいよ、家族との生活今の暮らしとの訣別のとき、ギラギラと輝く、カミュの太陽のような陽光、青空、福引に並ぶ庶民我が妻子、太陽に青空にくらくらと惑い、涙を流して歩き去る竜二。うつくしい妻はおいかけることなく、子を抱いて、おじいちゃん家に行こうと言い子はまた全日空に乗れるの?というて竜二の物語は終わるのだ。冒頭からエンディングまで対象への温かくシャープな眼差し、ふわふわと浮かれたように見えるごくごく普通のちんまりした世の中の街の人々の景色。ショーケンの歌が流れる。
ただ1本だけの、続きのない傑作。
この頃のかっこよさがぎっしり詰まりカッコ悪く生きてくしかない私らの身体をこわばらせるすごい映画だった。テアトル新宿さんの素晴らしい音響で、上映ありがとうという気持ち。