「夢、見果てたり」蘇える金狼(1979) 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
夢、見果てたり
大企業・東和油脂の経理部勤めの青年、朝倉。
朝から大きなくしゃみ、故郷の母から送られてきたリンゴの箱で上司を躓かせ苛つかせるも、会社には補欠で入り、一応出世コースの平凡社員。
昼食時の同僚との話題は、早朝近辺で起きた事件。1億円強奪殺人事件。
犯罪ではあるが、捕まらないといいなぁ…と、羨望。会社上役の黒い噂に対しても何も言えない。
そこへ銀行関係者がやって来て、盗まれた紙幣のナンバーが控えられていると聞くと、朝倉は静かに激昂してペンを折る。
何故なら…。
昼は黒ぶち眼鏡のうだつの上がらないサラリーマン。
しかし、夜は…。
そう、1億円強奪殺人事件の犯人は、彼。
鍛えた身体で悪の限りを尽くす夜狼。
二つ顔を持つ男。
“遊戯シリーズ”の監督・村川透&主演・松田優作のコンビで大藪春彦の小説を映画化したハードボイルド・アクション。
全編に渡って村川透のハードボイルド演出、松田優作のダーティ・ヒーローの魅力が濃縮!
朝倉の目的は、自身の会社の乗っ取り。経理部部長の愛人・京子に近付き、ヘロインとセックスで我が物にする。京子役・風吹ジュンが魅力的で、大胆ヌードや濡れ場も披露。
盗んだ1億円の足が着かぬようヘロインに換える為、ヤクの元締めである市議会員の邸宅へ。脅されるも、逆に脅し返す。受け渡し場所で命を狙われるも、返り討ち!
順調に物事が進んでいた時、財政界のフィクサーが桜井という男を使って会社に強請を掛けてきた。
金を巡って繰り広げられる男たちの争い、欲、裏切り、敵は味方は…?
出し抜くのは…?
改めて見ると、荒唐無稽でリアリティーはナシ。
もし現代風に作られても、かなり突っ込まれているだろう。
このムードや作風でどうしても甘くなりがち。
だけどそれを充分補うは勿論、松田優作!
とにかく、本作の松田優作はワル!
“悪役”としてだったら『ブラック・レイン』が強烈だが、あちらは端から潔く悪。
しかし本作は、昼間は善人の仮面を被って本性は自分の野望の為なら非道ですらある。質の悪さでは寧ろ…?
それでもカッコいいのだ。
漢のカッコよさ、ダーティーさ、哀愁も込めて。
やはり日本映画に於いて、“ハードボイルド&アウトロー”がこれほど合う役者は彼しかいない!
周りの敵を始末し、会社重役まで登り詰めた朝倉。
社長令嬢とも婚約。
会社株を狙うフィクサーが、株の3倍の金額値で接近してくる。
全てを手に入れた。
全て我が物。
カッコいい新車で、俺の街を高笑いしながら爆走。
…しかし、悪の限りを尽くした男の行き着く先は、分かり切っている。
女は男の為に協力した。だが、捨てられたと思い込んだ。
男は女と旅立つ計画をしていた。
その真意が伝わらず、女は薬を飲み、男をナイフで刺し…。
ラスト、飛行機に命尽き果てようとする彼は、何処に行こうとしていたのか…?
設定上は海外逃亡だが、そんなんじゃない。果てぬ己の夢や未来へ…。
レビュータイトルは、私が大好きなアニメのエピソードタイトルから拝借した。