「加害者も被害者もその家族たちも追い詰められていた」誘拐報道 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
加害者も被害者もその家族たちも追い詰められていた
1980年に起きた宝塚市学童誘拐事件。
兵庫県宝塚市の歯科医の息子である小学生男児が下校中に誘拐。犯人から3000万円の身代金要求。
身代金受け渡しに失敗し、子供の安否が気遣われる中、自動車警ら隊員が不審車に声を掛けた所、トランクに子供を発見。47時間ぶりに保護された。
犯人の男は脱サラ後、喫茶店経営をするも、失敗。知人とも金銭トラブルになり、多額の借金を背負い、返済の為の犯行。
誘拐した男児と犯人の娘は同じ学校のクラスメイトで、犯人はクラス名簿から情報を得たという…。
それは当時世間に衝撃を与えたが、本作自体は誘拐映画としてオーソドックスでありつつ、関わった人間模様をじっくり描写。
犯人とその家族、被害者家族、警察や新聞記者らが交錯。
ただ単に犯人を悪者扱いするのではなく、悲哀たっぷり。焦り、自暴自棄になりながらも、熱を出した子供を心配。
疲労困憊、憔悴しきっていく子供の両親。
夫を信じる犯人の妻。その胸中…。
皆が追い詰められている。悶え、苦しんでいる。
事件は無事解決したが、各々負った傷はなかなか癒えない。
伊藤俊也監督の演出はドキュメンタリータッチ。
臨場感や緊迫感は充分だが、スリリングでハラハラドキドキのエンタメ性にはちと欠ける。あくまで事件の経過と人間模様を見つめる。
役者陣は皆、熱演。が、時々過剰演技過ぎでもある。特に主演の萩原健一。終盤などもはやキチ○イにしか見えない。
小柳ルミ子や秋吉久美子らは一枚上手。
ドキュメンタリータッチの演出と一部過剰演技がアンバランスに感じる点もあるが、見応えは充分。
子供が無事戻ってきて涙する両親。
無事解決を労う警察たち。
若い新聞記者は犯人の妻と娘を写真に収めるが…。
娘の言葉。それでも父親だった。
報道協定も大きな要素の一つになっている。
解除になるまで各メディアは一切報道しない。その代わり、警察は得た情報を伝える。
デマや誤情報の阻止。被害者の安否や事件早期解決の為に。
だが解除直前、一社が犯人逮捕の瞬間をヘリから撮影したと協定違反に問われ、暫く記者クラブ出禁を命じられる。
先走ってまでスクープしたかったか、被害者家族や世論の為の報道の自由か。
報道の在り方を問う。