「四百年の怨念が蘇る…血塗られた怪奇譚!」八つ墓村(1977) syu32さんの映画レビュー(感想・評価)
四百年の怨念が蘇る…血塗られた怪奇譚!
Blu-rayで4回目の鑑賞。
市川崑監督による「犬神家の一族」の大ヒットによって爆発的横溝正史ブームが到来していた時期に、松竹が巨額の製作費と2年余りの撮影日数を費やして完成させた超大作。
監督・野村芳太郎、脚本・橋本忍、撮影・川又昴、音楽・芥川也寸志―同じく松竹の「砂の器」を成功へと導いた布陣。これだけで本作のクォリティーは証明されたというもの。
ブームに上手く便乗したことと、妥協無き製作陣の熱意が実を結んだことで、本作は特大ヒットを記録。金田一耕助シリーズの中でも、今では抜群の知名度を誇る原作も、本作のヒットが無かったらここまで有名にはなっていなかったかもしれないと考えると、めちゃくちゃ感慨深いものが…。
角川映画・東宝製作の金田一映画と差別化を図るため、原作からの大胆な脚色が試みられているのが本作の見どころのひとつでございます。原作は怪奇風味のミステリーですが、本作は完全なホラーとして映画化。祟りを模した連続殺人を、本物の祟りとして描き出しました。
金田一耕助(渥美清が演じているというのも異色!)の推理場面を極力控えめにして風味だけを残し、怪奇譚としての趣を壊さないように工夫が施されていて、徹底しているなと思いました。さすがの名探偵も、祟りが相手とあっちゃあ、少々お手上げ気味というところでしょうか?(笑)
舞台設定も公開当時の1970年代に移し、現代社会と失われゆく日本の原風景、“呪い”や“祟り”などの日本古来からの因習や文化との比較と憧憬が籠められていて、まさに“ディスカバリー・ジャパン”。ここは市川監督版とも重なる部分だなぁ、と思いました。横溝作品は、このテーマを扱うのにお誂え向きなのかもしれませんねぇ…。
「八つ墓村」は過去に何度も映像化されているので、テレビドラマ版などをいくつか観たことがありますが、本作の面白さは群を抜いているなと思いました。
祟りを炙り出すような画づくりと、脚本の妙が炸裂していて、画面に惹き付けられました。怪奇とロマンに溢れていて、日本人のDNAに刻み付けられているものが呼び起こされる感じで、目が離せなくなる魅力があるなと思いました。
落武者を襲う村人たちの凄惨な殺戮場面、多治見要蔵の狂気の32人殺しのシーン、現代に巻き起こる陰惨極まりない連続殺人事件―それぞれの描写がリアルであればあるほど、恐怖が際立ち鳥肌が立つような想いでしたが、それでも夢中になって食い入るように観てしまいました。
鍾乳洞で繰り広げられるクライマックスが本作の白眉! 血塗られた怪奇譚を締め括るのに相応しい名場面だなと思いました。悪鬼のような形相で迫り来る祟りに取り憑かれた真犯人…。いやぁ、おぞましい…。愛欲、情念、得体の知れない何かに突き動かされての犯行…。
そんな不気味で恐ろしい世界観において、いい意味で異質な雰囲気を醸し出した渥美金田一の存在感…。そこだけ次元が違うのかなぁ、と疑いたくなるくらいに、安らかで優しいものが漂っておりました。やっぱり金田一耕助は天使か何かなのかもしれないなと思いました。
滅びの美学を感じさせる多治見一族の末路と祟りに翻弄された人々の行く末…。様々に感じ入るところがあって、とても心に染みて来る作品だな、と…。折に触れて何回でも観返そうと思いました。完璧な推理劇になっていないことも、飽きが来ないひとつの要因なのかもしれません…。
七生まで呪ってやると宣言した落武者たちが、滅び行く多治見家を丘の上から睥睨しながら不気味に微笑むシーンに、最後の最後で戦慄しました。夏八木勲…怖いよぅ! 祟りを生むのも人間、祟りに取り憑かれるのも人間、祟りを恐れるのも人間…つまり一番怖いのは人間、ということなのかな、と…。
※追記(2019/3/31)
萩原健一さんが3/26に亡くなられました。近年相次ぐ名優たちの死に、時の流れのやるせなさを感じる想いです。心よりご冥福をお祈り申し上げます。
※追記(2020/2/11)
NHKオンデマンドで吉岡秀隆版を観ましたが、やっぱり本作のクォリティーには到底及ばないなと思いました。
それにしても、映画版のキャスト 脇役陣が迫力有り過ぎますよね〜 山崎努は、まだ若くてエネルギッシュだし、市原悦子の怪しい婆ちゃん役に 当時の山本陽子と中野良子は今なら、綾瀬はるかと石原さとみ的な立ち位置で、皆んな馬力が有ったなぁ〜って つくづく思います!
そうでしたか〜 原作も読まれてたんですねー 原作では村人128人が洪水で本当に全滅してしまいますよね〜 古谷一行 金田一のドラマ版は原作に忠実に作られています。ただ、映画版の方が遥かに面白いしヤバイと思います。
syu-32様、共感頂き有難うございました。自分がレビューを書いてからsyu-32様のレビューを読ませて頂きましたら、レベル高っ!って感じてしまいました〜 流石でございますー