「映画自体は大変に荒削りで残念な出来映えだか、それでも松田優作の怪演は見物だ」野獣死すべし(1980/村川透監督) あき240さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5映画自体は大変に荒削りで残念な出来映えだか、それでも松田優作の怪演は見物だ

2019年8月18日
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鑑賞方法:DVD/BD

本作公開の前年に実際にあった三菱銀行北畠支店事件が下敷きにあるのはすぐわかるだろう
それよりも、本作公開2年前のディアハンターにより大きな影響を受けているのも明らかだ
と言うより、日本版のディアハンターを作ろうと意図したのではないだろうか?

単に夜行列車の中でのロシアンルーレットのシーンがそれを模したというだけでなく、今風に言えば戦場でのPTSDによる主人公の精神崩壊をテーマに据えてあるのを理解すればそれをなぞろうとしたものとわかる

難解だとされるラストシーンは、猛速度で走行する列車の窓を破って飛び降りてからのシーンは全て主人公の転落による瀕死のなかでの幻想であると自分は理解した

石造りの地下要塞の内部での主人公の長台詞でも
「ベイルートの南10マイルのジャングルの中を・・・」と直ぐにおかしいと分かるようにしてあるではないか
そこにあるのはベイルート国際空港だ
そもそもヨルダンには丘陵に低木が生えるのみでジャングルなどあるはずもない
インドシナかウガンダとの記憶の混同が起こっていると分かるように示唆してあるのだ
そして日本の田舎の山地にそんな地下要塞跡があるというのも記憶の混同を表現しているのだ

続く日比谷公会堂のシーンも小林麻美演ずるヒロインの追想であり、刑事により罰をうけ死にゆくことを表しているのだと思う

映画自体は大変に荒削りで残念な出来映えだ
彼が野獣に変わる原因たるベトナムなどの戦乱の悲惨なシーンはニュース映画のモンタージュを白黒で挿入しているに過ぎない
そしてフラッシュバックして錯乱する中で彼はこう叫ぶ「俺は日本人だ!関係ない!」
自分がまるで透明人間であるかのような、なんという無責任な甘えの思考だろう
それが台詞の中で露呈してしまっている
そこにいるだけで当事者なのだ
戦乱のなかで殺されていく現地の人々にその台詞はなんと聞こえるのだろう
その台詞を核にして作られている映画とは一体何だろう?

それでも松田優作の怪演は見物だ
傑出した役者であることは存分に証明している
それだけでも本作を観る意義も価値もあるのは間違いない

また鹿賀丈史と室田日出男も素晴らしい仕事を残している

あき240