「成瀬巳喜男&林芙美子。主演・上原謙&原節子」めし 琥珀糖さんの映画レビュー(感想・評価)
成瀬巳喜男&林芙美子。主演・上原謙&原節子
1951年。成瀬巳喜男監督作品。原作:林芙美子の絶筆で未完。
結末は脚本の田中澄江と井出俊朗により独自に考えられた。
林芙美子ならどんな結末になったことだろう?
1951年(昭和26年)とは、敗戦後6年のまだ混乱期だった筈だが、
日本人は貧しいながらも堅実に暮らしている。
映画は大恋愛で結婚した初之輔(上原謙)と三千代(原節子)夫妻が5年の結婚生活で、
三千代は所帯やつれし、倦怠期の真っ只中にいる。
そんな貧しい夫婦の生活に初之輔の姪の里子(島崎雪子)が、家出をして大阪にやって来て、
しばらく同居することになる。
今で言えば「新人類」みたいな雪子は、思ったことをズバリとクチにするし、
遠慮というものがない。
しかも初之輔に妙に馴れ馴れしいのだ。
里子の存在が、三千代の心に波風を立てる。
ただただ貧しい暮らしに、3食のメシの支度・・・こうして20年もあと30年も、
こんな詰まらない暮らしを続けて、ただ老いて死んでいくのか?
三千代の心に隙間風が吹く。
何のことはない、「82年生まれ、キム・ジヨン」の悩みと大差ない。
70年を経ても女の悩みは、あいも変わらず《自立》なのだから、ちょっと悲しいし、笑いたくもなる。
この映画は三千代の日常をスター女優の原節子の《所帯やつれ演技》が上手くて、
……履いていたスカートを脱いでアイロンを掛けるシーンなど、ビックリするほど、
昭和26年当時の、貧しさと家事の律儀さに溢れている。
女は結婚して家庭に入ったら、
「釣った魚に餌はやらない」
の男の言葉通り、たまのご褒美しか貰えないのだ。
来る日も来る日も掃除・洗濯・おさんどん!!
しかしこの映画は実に楽しい。
天下の二枚目と歌われた上原謙もタダの株屋の社員で稼ぎも少なく、
面白みもない上に妻の顔を見れば、
「腹減ったなぁ」が常套句なのだから笑わせる。
夫婦の倦怠期で97分、目一杯楽しめるのだから・・・素晴らしい演出術である。
(演じるのが、二杯目スター・上原謙と“永遠の処女”原節子・・・
・・この配役だけで、そのインパクトが恐ろしい程だ!!)
成瀬巳喜男監督のことを、ヤルセナキオ・・・とか書いてらっしゃるフレーズを
どなたかのレビューで読みました。
…………やるせ無き男……
…………やるせ泣き男……
言い得て妙である。