「日活初のカラー映画は、ミュージカル・ファンタジーの振りをした少年少女の冒険譚!でした」緑はるかに ミラーズさんの映画レビュー(感想・評価)
日活初のカラー映画は、ミュージカル・ファンタジーの振りをした少年少女の冒険譚!でした
ナレーションによる少女漫画や童話風の始まりから、14歳にしては幼くみえる浅丘ルリ子扮するルリ子が、緑色のオルゴールの音から御伽の国に呼ばれる冒頭だけ、偶然にも数年前に見てから、カラー画面の発色に興味を持ち、神保町シアターにて鑑賞。(Amazonプライムにも配信されてるがあそこは心情的にパス)
ストーリー自体は、正直ツッコミどころ満載で、バラエティ番組で今時の芸人どもが、笑いネタしそうな展開だが、職人・井上梅次監督の手際もあり、ゆるい出来ながら楽しめるところも多々あり。
ネタバレもあります。
親子が国際的な悪のスパイ一味(ポンコツ軍団なのが後で判明)に誘拐されて山奥のアジトに拉致監禁されるとこは、設定やセット美術などは、007やSF特撮ヒーロー物風で、当時としては割とモダンでワクワクすると思う。
意外なのは悪人が母親を釣り上げてムチでビシバシと拷問した後に両親共に死亡したり、割とハード・シリアスな雰囲気で驚く。(原作だとルリ子が拷問されるらしいが実現してたら変なマニアに神格化されそう)
逃げ出したルリ子が山中で出会う孤児3人組は、殆どズッコケ3人組状態で役名もチビ真・ノッポ・デブと雑な扱いだが、彼が加わるところから更に少年探偵団風の冒険活劇に変化して、アジトからの脱出するために、エレベーターシャフト内や吊り橋落下での危機一髪など、近年の『インディ・ジョーンズ』シリーズが再現していた場面そのままに展開して目を見張る。(吊り橋のところはインディの魔宮の伝説を彷彿とさせる)
後半は、川に流されたマクガフィンでもある世界的研究の秘密が入った緑のオルゴールを街に舞台が移って、捜索と争奪の展開になるが、ここで悪役一味の仮の姿が、サーカス団だと分かる場面も少年探偵団風。(ゲスト出演のフランキー界の場面以外はサーカス設定が希薄だが)
衝撃なのは、なんだかんだで、オルゴールも手元に戻り、悪党一味が警察に問い詰められるところで、唐突に死んだハズのルリ子の両親が普通に現れて解決なところは、そろそろ終わりなので残ったコーヒーを口に含んでいて本当に吹きそうになったが、脳天気なジュブナイルと考えると妥当か。(よく堪えた自分)
井上梅次監督は本作の後に、石原裕次郎主演の『嵐を呼ぶ男』で日活映画の最高のヒット(確か)を飛ばし後にも凄まじい数の作品を監督するが、個人的にテレビ映画シリーズの天知茂の『江戸川乱歩の美女シリーズ』を立ち上げて、長期の人気シリーズに功績は凄いと思う。
撮影については、カメラ機材の影響か全体的に躍動的な絵が無くて固定されたフレーミング多いのでそこは残念だが、日活映画初の本格的なカラー画面は、かなり前に写真などのフィルム製造から撤退してしまったコニカによる、映画用さくらカラーフィルム(短命なので希少価値がある)の発色はオリジナルプリントを拝見してないので分からないが、少し先に公開されたフジフィルムによる日本初の国産カラー映画の名作『カルメン故郷に帰る』より発色や色のりやコントラストなども正直ところ良好に見えるので、手間とコスト問題が解決されていたら、こちらが主流になったのでは?な想像もできる。
このさくらカラーはポジフィルム撮影で、カラーネガフィルムに変換して更に上映用ポジにプリントするプロセスがあり普通より1行程も多いらしい。(変換のカラーネガはデュープ専用なのかな?)
後の大女優になる当時14歳の浅丘ルリ子の初出演で主役の大役を見事こなしているが、役柄上あまり見せ場が少ないが、特別出演の形で北原三枝や有島一郎と井上梅次監督が見出した岡田真澄やフランキー堺など顔が見せるのは豪華。(しかし足の不自由な悪役(内海突破)の役名が、ビッコなのは苦笑)
序盤とラストにルリ子の空想のかたちで、同じ児童文学の『不思議の国のアリス』や『オズの魔法使い』(映画の方)を想起させるミュージカルシーンもあるが、正直ダンス描写の作り込みや描写の面で全体的に明らかに力不足感が漂うが、情報や技術レベルなど少ない時代を考えると試行錯誤の段階であると思う。
この映画ミュージカル場面を学芸会と揶揄する論評も見かけるが、最近の日本映画でもハリウッド映画のヒットしたミュージカル(ラ・ランド)などを、凡庸なレベルで取り込んで模倣してるヒットメーカー監督がいる方が嘆かわしいと思う。
本作の公開当時の興行成績は、ヒットとはいかずそれなりらしいが、大女優になる浅丘ルリ子のデビューにして主演作としてや試行錯誤のカラー化などの部分でも価値があり、それと会社を上げての初カラー映画が児童文学の映像化なのも、のちの日活青春映画や無国籍活劇などのモダンなところや、70年代に児童映画の秀作を製作する繋がりが、散見されるので興味が有ればオススメしたい。