劇場公開日 1995年9月9日

水の中の八月のレビュー・感想・評価

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4.0映画館で観るべきです

2018年12月1日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

泣ける

幸せ

国立映画アーカイブスの小劇場で大音量で観ました。 ・この映画は筋を説明しても良さが伝わらない映画らしい映画です(譬えとしてどうかとは思いますが、フェリーニの映画の筋を説明しても良さはわからないように)。 ・さらにDVDではなくて映画館で大きな画面と大きな音でないとさらに良さが解らないと思います、独特のあの間はあのキーンという音でないと良さが伝わらない。 ・主人公二人の瑞々しさを、この時期この瞬間でしか切り取れないタイミングでドンピシャ撮れたのも大成功、特に少女役の女優さんは素晴らしい(演技どうこうではなくて素材として) ※筋に少々無理があるので4点ですが4.5点あげたいぐらい、もっと評価されていいと思いました、アニメの君の名より好きです

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雪国の離島の生まれ、山裾育ち

4.0瑞々しい映画

2015年12月15日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

超新星の爆発により隕石がふたつ落ちるという怪現象に遭遇し、そして記録的な渇水に見舞われ、人間が硬直してしまう石化病という原因不明の病が蔓延する博多の夏のことである。高校三年生の桑島真魚は、東京から転校して来たという高飛び込みの選手の葉月泉と出会う。真魚の悪友である浮谷の友達の美樹は、コンピューターで弾き出した結果泉が近々水難事故に遭うことを予測してしまう。果たしてその運命の日、泉は試合中の事故で意識不明の状態に陥ってしまう。辛うじて全快した泉だが、その出来事を切っ掛けに奇妙な行動を取り始める……これがこの映画のプロットである。 瑞々しい映画だな、というのがこの映画を観た正直な感想だった。この映画を観るのは三度目くらいになるのだけれど、初めてスクリーンで観た時は自分もまだ二十歳そこそ子で「世紀末」の匂いを感じながら観たんだったっけな……と思ったのだった。今の若い人はもう知らないかもしれないが、前世紀末はノストラダムスの大予言の影響で本当に世界が滅びるかもしれない……という空気が瀰漫していたのである。オカルトと共振性の高いこの映画でも、そうした終末感というか世界が終わる危機というものは巧みに描かれていると思う。 冒頭の洋服を着たまま小嶺麗奈演じる泉がイルカの居るプールに飛び込むシーンから始まって、この映画では「水」が重要な役割を果たす。それは上述したプロットの整理から明らかであるだろうが、至るところに「水」は頻出する。プールに波々と張られた「水」、そして泉が事故から意識を取り戻して能力を得られたことから渇水中の水道からは「水」が溢れ出し、ネタを割ることになるかもしれないが最後の最後で泉は「水」を湛えた川を遡って山へと帰って行く。全ての元凶ともなるべき遺跡のある山へと……このラスト・シーンは三度目に観た私でも切なくなってしまう。 石井岳龍(当時は石井聰互)監督の映画を観るのはこれが初めてで、つまり『逆噴射家族』も『狂い咲きサンダーロード』も観ていないという体たらくなのだけれど三度目となる今回の鑑賞も充分に楽しむことが出来た。これは一週回って今のライトノベルが好きな方でも充分に楽しめるのではないだろうか。ひとりの少女がとある事故を切っ掛けに世界を救うべく立ち上がる……学園を舞台にした、くどいが極めて瑞々しいドラマである。十代の若い子には堪らない映画なのではないか、と思わされたのだ。オカルトや幻想小説的な味つけが施された、しかし極めてストレートな恋愛映画である、というように考えてしまったのだが、私だけだろうか。 またしてもくどくなるが、冒頭の泉がプールの中に衣服を身に纏ったまま飛び込むというその一連の映像だけで度肝を抜かれてしまった。その他にも競泳を丁寧に描いていて、そこも興味は尽きない……さっきから同じことを繰り返して書いている気がするのだけれど、やはり石井監督の作品をきちんと観ていないことから来る不勉強を痛感しているところだ。だからせいぜい、ぼんやりした印象しか書き取ることが出来ない。都会と山との対比がこれまた巧く描かれているな、というようなことしか書けないのだった。特に町田康氏演じる異常者が夜中に山に忍び込むシーンの幻想的なことと来たら。二度の鑑賞でも特に記憶に残ってなかっただけに、今回観ていて強烈に記憶に焼きついたのだった。 そんなところだろうか……最後の最後で、泉が己を犠牲にして渇水が続き石化病が蔓延する博多の街に雨を取り戻す一連の流れが面白いというか、感動的であるとさえ思った。雨はダイナミックに降り注ぎ、枯れていた滝を蘇らせるところまで復活させる。この映画の裏テーマとしては「人間は地球環境危機に対してなにが出来るか?」ではないかと思うのだけれど(化学というか理科の教師が、地球環境破壊に対して人間が亡くなれば全ては解決するのではないか、ということが語られる)、この映画はそういう問に対して答えを出しているようにも思う。その答えをひと口で言うのは難しいしどうしても凡庸になってしまうのだけれど、やはり「水」という神秘的な物体が存在する地球をもっと大事にしよう、崇高なものを大事にしよう、ということに繋がるのではないかな……と思ったのだ。 若き日の小嶺麗奈氏の演技が素晴らしい。生真面目で、自分には重過ぎる悩みを抱え込んだ少女の役を好演していると思う。あとは男たちに混じって野球を行うなどお転婆なキャラクターを演じる松尾れい子氏の佇まいもまた印象に残った。このふたりは同じ石井監督の『ユメノ銀河』でも出演しているらしいので、これは観るのが楽しみだ。取り敢えず未見の石井ワールドを何処から掘り崩すかにあたって、強烈な『逆噴射家族』や『狂い咲きサンダーロード』ではなく『ユメノ銀河』あたりから静かに掘り返して行こうと思っているのだった。 他に書けることと言えば、結局は競泳というか高飛び込みに挑む女の子たちの姿が美しいとかそういうことぐらいだったりする。それ以上のことは流石に感想が出て来ない。これもまた不幸な出会い、と呼ぶべきなのだろうと思う。繰り返すが、実に瑞々しい映画だと思う。うっかり触ったら壊れてしまうのではないか、という繊細さによって成り立っていると言えば良いのだろうか。三度目の鑑賞を経てもなお、この映画のそうした繊細さに共鳴する自分がそこに存在することに気づかされたのは幸運なことだった。私にとって思い入れの深い映画なので、また観られたことを有難く思ってしまった。

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踊る猫