「戻る気なくなった裕也」水のないプール K・Mさんの映画レビュー(感想・評価)
戻る気なくなった裕也
「タクシードライバー」のトラヴィスは俺的には普通の自分に戻りたかったんだと思う。出征する前の自分に。
好きな女を振り向かせる事も大統領暗殺も少女を救出する事も、それが果たせたら戻れると思ったんだ。
けれど、少女の親から礼を言われても女を見返す事が出来ても雨の夜にタクシー飛ばす自分しか居ない。
朝は来ない事を真正面からぶちまけたから「タクシードライバー」は名作なんだと思っている。
本作の主人公も所帯を持つ前の自分に戻れたら、どんなに身軽かと毎日あがいているわけだが、ひとたび快楽の道を知るやそれが本道だったかのように没入していく。
最初の犯行に成功した時から、もうどこへも戻る気なくなったんだよな。
自らプールの栓を抜いて泳げなくしてしまったんだ。泳ぐ気があったかどうかは定かじゃない。この不器用な中年男がうまく泳げるとも思えない。
本作がやたらと気分に流されて、もうひとつ感が拭えないのは主人公の内面に焦点を当てるのか、性犯罪をエロ描写で見せたいだけなのかハッキリしなかったからじゃないかな。
俺は後者に特化したほうが良かったように思う。
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