麻雀放浪記のレビュー・感想・評価
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まっすぐなクズ。
◯作品全体
主人公からヒロインまで、とにかくまっすぐだが、とにかくクズだ。
しかし、それが面白い。中途半端にメロドラマに走ったりライバルを労ったり、情けを見せることはまったくと言っていいほど、ない。物語や登場人物をキレイに見せようとする気が一切ないから、むしろ清々しくて面白い。
どの登場人物も誰かに寄り添える機会はある。主人公・哲はクラブのママに寄り添える存在でありながら「自分の女にしたい」というエゴをむき出しにするし、一方でクラブのママは哲を遊び相手にするし、博打の世界へ容赦なく放り込む。
ドサ健はきっぷの良い大人の男として登場するけど、勝負のためには惚れた女も売り払う。売り払われるまゆみも一途な女である一方でイカサマにも積極的に協力するし、そしてなにより、ドサ健をダメ男にしている張本人でもある。
どいつもこいつも、一途すぎる。「一途」といえば聞こえは良いが、自分の欲望のためには他人の不幸や考えも置き去りにして博打を打っているところが、相当にクズだ。しかし、だからこそ、活き活きしていて面白い。
戦後間もない日本では、むしろ生き抜くために必要なクズ要素なのかもしれない。敗戦国のバラックで過ごす彼らにとって自分の欲望を叶えることこそ本望であるならば、むしろ褒め言葉として「まっすぐなクズ」という感想を送りたくなった。
◯カメラワークとか
・冒頭、博打へ向かう哲たちから場面転換して土砂降りのボロ小屋を見せる緩急でまず心を掴まれた。カットを割ると突如爆音で流れる雨の音が、突拍子もなさ過ぎてむしろスタイリッシュに見えるのが面白い。
・ドサ健が2回連続天和になった出目徳を怒鳴ったときの、出目徳が睨みを効かせるカットが凄くカッコよかった。ドサ健が電球に頭をぶつけて光が揺れることで出目徳に落ちる影が揺れて、顔半分に影が落ちる「ドスの効いた本性」がチラつく。出目徳は極端に形相を変えていないのに、威圧感を強烈に演出するアイデアが素晴らしい。ただのオッサンっぽいルックスの出目徳の神髄を見せる場面というか、隠していた刃を光らせたような。
・終盤で主要人物4人が宅を囲むカットは真俯瞰を使っていた。モノクロの画面も相まって、一気に画面の情報が減って、研ぎ澄まされた感じがかっこいい。4人の世界にのめり込むような真俯瞰だった。
〇その他
・真木よう子演じるママが哲に初めて積み込みを教えるシーン、真木よう子の動きがぎこちなさ過ぎて笑った。麻雀牌に慣れてない初心者の動きがあまりにも出すぎてる。指で牌をひっくり返す練習、したんだろうなあっていうのがわかっちゃうぎこちなさ。
・女衒の達の人物造形は絶妙なバランス感覚だった。落ち着いた物腰から感じる人としての大きさ、ドサ健に肩入れするストーリーから「実はいいやつ」にしちゃうのかなと思ったけど、人買いとしての容赦のない本性、博打打ちとしてのだらしなさは、クズが集う作品にふさわしいクズっぷり。
・今じゃ真田広之は演技派になるんだろうけど、この作品だと男性俳優の中で唯一トレンディっぽい軽さを感じる。若いからしょうがないけど、周りの俳優の濃さに負けちゃってる。物語としても、終盤はドサ健と出目徳に主役を取られちゃってる。そういう意味では貴重な作品だ。
・出目徳が死んじゃってからのくだりが最高にクズで笑ってしまった。「死んだら負けだ」とかそれっぽいこと言って金品を奪うドサ健のクズっぷりも面白いけど、なにより「出目徳を家に帰そう」とか言って土手の上から転がして水たまりに落とすのは、もうクズを越えてギャグ。でも、クズなりに真剣に考えて思いついた結果ああした、みたいな感じがとても良い。すごくまじめにアホなことやってるのが伝わってる。直前に霊きゅう車を一生懸命運んでるシーンをいれてるのが「真剣」を伝えるのにいい仕事してる。でもどんだけ真剣に考えてもクズだからクズの発想しかでてこないっていうのが最高。
・ラストもすごい。みんなすごく明るい表情なのに、乗っているのは霊きゅう車で、この後やるのは博打。そして一番年取ってそうな虎を霊きゅう車に乗せずに走らせてる。でもみんないい顔。ナチュラルにクズだし、真っ直ぐにクズ。それがすごく伝わるラストだった。
博打と青春と生き様と。
Amazonプライム・ビデオでレンタルして鑑賞。
原作は未読です。
坊や哲やドサ健、出目徳など、登場する博打打ちたちのキャラクターがめちゃくちゃ個性的で、それぞれが放つ熱がすごいなぁ、と圧倒される想いでした。登場人物の殆どが通り名というのもユニークで面白いなぁ、と思いました。ある意味名前を捨てて、社会の裏で生きている、というような、ピカレスク・ロマンな匂いが堪りませんでした。
坊や哲にとっては青春期。博打の世界に身を置く中で、世間の世知辛さと奥行きに触れ、初めての恋と別れを経験し、男になっていきました。しかし、主人公であるのにも関わらず、終盤に掛けてはドサ健のリベンジ大勝負の感じが強くなって来て、視点がぶれているような気がして混乱しましたが…。
博打打ち、いかさま師…一度その世界に足を踏み入れた者たちの生き様が胸に迫って来ました。ギャンブルは一度もしたこと無いですが、それぞれの矜恃を賭けたクライマックスの麻雀シーンに言い知れぬ迫力を感じました。
古き良きモノクロ映画を彷彿とさせるようなつくりになっていて、冒頭でキャスト・スタッフの全員の名前を出して、ラストは“終”の文字のみ、みたいな。いやぁ、いいねぇ! 雀卓をローリングするように撮影したり、斬新なカメラワークが炸裂していて、挑戦的な映画だなぁ、と思いました。
【余談】
特撮ファンとして気になったこと―。クレジットに成田亨の名前が! 冒頭の焼け跡のリアルなミニチュアや、坊や哲とママが歩く川岸のシーンの、川を進む船やそこに架かる橋など、随所に特撮シーンがあって、無条件にたぎりました(笑)
戦後混乱期のクズな賭博師たちの激しい生き様
総合80点 ( ストーリー:75点|キャスト:80点|演出:75点|ビジュアル:60点|音楽:50点 )
戦後の混乱期に生きた一癖も二癖もあるクズの賭博師たちの生き様を描く。
彼らは純粋に賭博に打ち込み勝負をするのではない。むしろいかに相手を出し抜くか・騙すかに全力をあげる。勝負に失敗する度に生活が破綻するが、まっとうな生活はしようとはしないし、まっとうに生きている登場人物がそもそも登場すらしない。だけどその世界にどっぷりとはまってクズな生き方を貫いていく底辺の人々の様子が面白い。彼らはどうあってもこういう生き方を止められないし、その浮き沈みの激しさが刺激となっている。
登場人物も魅力的。特に癖の強いいかさま師の出目徳を演じた高品格が印象深い。ただし彼が中盤でドサ健相手に大勝負に勝って家まで手に入れたのに、それを協力者にあっさりと渡して自分は粗末なほったて小屋に住んでいたりするのがよくわからない。
ドサ健役の鹿賀丈史も人を食い物にするだけの典型的なクズで、だけどそのクズぶり故に存在感があった。
だけどこれだけのことをやっているのに、やられたほうが暴力や盗みといった実力行使で反撃に出ないのが不自然だった。特に主人公の真田広之がドサ健に何をされても何も仕返しもしないし縁切りもしないのは変だし、それゆえに主人公としての存在感が薄れて面白みがない。米兵が実力行使に出るのはいかさまなしでまともに勝負して負けたときなので、いつもまともなほうが損をするというだけで、いかさまに対する反撃がない。こういうのは不自然。
素晴らしかった
モノクロ映画にしたことで戦後の荒れ果てた東京がとてもリアルでスケール感のある表現が見事だった。
ばくち打ちにはロクな人間がおらず、お互いを信用しないまま、それでもつかず離れずで付き合っているところが悲しく面白い。出目トクの遺体を土手の上から雑に転がして、それで親切にした気になっているところが非常に何かを語っているように感じた。お互い明日は我が身なのだろう。高めの役を積もって死ぬなら、むしろ本懐であったのかもしれない。
大竹しのぶの家が非常に雑にやりとりされていて、あの権利書も戦後さながらなら大した価値はなかったかもしれないが、最終的に権利書を持った人が勝ちであると思う。
お話も面白いし、表現もかっこいい。なにより登場人物が全員クズなところが特に素晴らしい。鹿賀丈史は本当に大竹しのぶを愛しているように描かれていたが、実際のところ自分の博打の方をはるかに優先しているからそれは表現の妙である。
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