「原作の膨らましに難があるものの…感動作!」鉄道員(ぽっぽや) KENZO一級建築士事務所さんの映画レビュー(感想・評価)
原作の膨らましに難があるものの…感動作!
NHKBS放送を録画して、
ロードショー以来の再観賞。
結末を知った上での再観賞だったため、
冒頭の多連結車両SLから
1両だけのディーゼル車の走行への
変遷シーンだけでも、
過ぎた時代への感傷と共に、
乙松の運命ともオーバーラップして
冒頭から涙腺が緩み、
またその後の展開でも、少女のカラクリを
知っていた故に、涙腺が更に緩んだ。
列車のような機械は時代変化の中で
換えていかざるを得ないが、
生身の人間は簡単にはいかない。
乙松の生き様は変化に対応出来ない愚直
なようで、しかし、ある意味、
時代の変化にも媚びない絶対的価値観での
実直な生き方でもあるのだろう。
そして、娘との奇跡のシーン、
現実的に考えれば、ホームで倒れた乙松の
雪の中で死を待つまでの
夢や幻影と考えるのが自然だろうが、
私は神様による乙松への実体的プレゼント
と思いたい。
一般的にリアリティを欠いた奇跡の描写は、
荒唐無稽にも成りかねず、
下手をすると作品世界から視聴者の気分
を遠ざけてしまうものだが、
ここでは乙松に成長して行く娘を見させる
ことが彼への最後のはなむけとして、
そして、それが彼に最期が訪れるからとの
予感を観客に与えることで納得させている
のだと思える分、この非現実的な描写
を受け入れることが出来た。
この映画は「駅 STATION」と並ぶ、
降旗監督の大好きな作品だが、
必要無さそうな吉岡秀隆役の登場、また、
志村けんと安藤政信親子のエピソードの
本筋との希薄性、
そして、ラストでの小林稔侍のアップ描写
などには感動を薄められてしまった。
高倉健と大竹しのぶは
言わずもがなの名演技だし、
せっかく小林稔侍も良い味を出していたのに
最後に彼を使い過ぎた感じに思える。
ラストはサラッと乙松の帽子にかぶり直す
シーンで切って欲しかった。
短編の原作を無理に膨らませ過ぎた脚本
ではあったと思うが、しかし、
撮影技術やメインキャストの演技力
に支えられたと思える感動作だった。