「終点」鉄道員(ぽっぽや) U-3153さんの映画レビュー(感想・評価)
終点
20数年前の映画。
こんな話だったのかと、少し驚く。
物語は廃線が決まっている終着駅の駅長の話。
回顧録とでも言えばいいのだろうか?
ノスタルジックに物語は進む。
もう今の若者達はこの話に共感などしないのだろうなと思う。働き方改革や終身雇用制度が崩壊した今の日本に、乙松の居場所はない。
自らの仕事に人生すら捧げる生き様を、彼らは「馬鹿」と蔑むのだろうか?
雪深い山の人口200人程の駅の駅長。
映し出される仕事の内容は、たわいもない物ばかりだ。電車を迎えて送り出す。
まぁ、つまらない。やりがいなどどこに見出せというのだろうか?
だけど、乙松の背中は丸まりはしない。
自らを卑下する事もなく、虚勢を張る事も威張る事もない。自然体で…とてもとても大きく見える。
定年を控えた乙松は言う、親父の言葉を信じていると。
戦争に負けた日本をデゴイチがキハが牽引し、前に進むんだと、だから俺は鉄道員になったんだ、と。
昔の人はどんな形であれ国を背負ってたのかなと思う。だからあんなに強いのかなと。
今とは人間の強度が違うように思う。
乙松は再三に渡り言う「後悔はしてない」と。
嘘なんだと思う。
泣き言を言えないのだと思う。
自分と自分の仕事を後押ししてくれてた妻の面目が立たないのだと思う。娘を送ってやれなかった事へ申し開きが立たないのだと思う。
彼が寂れた駅の駅長に執着するのは懺悔でもあったのだろうと思う。
そんな複雑な哀愁を健さんは見事に演じて見せた。
本当に素晴らしいと思う。
電車を見送る目の奥でだけ芝居をしてたように感じる。健さんは佐藤乙松の何に感銘を受けたのだろうか。
佐藤乙松を介して何を語りたかったのだろうか?
一役者が仕事として作品に臨む以外の何かがあったように思えてならなかった。
広末さんも素晴らしく…ナイスなキャスティングだと思う。彼女が天使に見えるのはどおいう事なのだろうか?監督はどんなマジックを使ったのだろう…。
そんな彼女の料理を食べる健さんに泣かされる。
「うめぇなぁ」
特別美味い料理でもないんだと思う。
でも、やっぱり乙松には、乙松の人生には格別な料理だったのだろうと泣けてくる。
そして、全く受身にならない大竹さん。
お見事でした。
日本特有の気高き精神性を、この映画に見たように思う。
その気高き精神は、今はきっと廃れているのだと思う。だからこそこの映画を尊いと思えてしまうのだろう。