「この日が来ると思いだす。」火垂るの墓(1988) penさんの映画レビュー(感想・評価)
この日が来ると思いだす。
居づらくなった親戚のうちを離れ、最初は楽しいままごとのような、兄妹二人だけの生活。ドロップをおいしそうになめる妹の笑顔。でも母の死を知って「なんで蛍すぐ死んでしまうん?」と涙をためて哀しげにつぶやく妹の声。そんないくつかの映像が、この日を迎えると、フラッシュバックのように思い出されて、目頭が熱くなってきます。
目頭が熱くなる理由は何なのでしょうか?
それは多分、監督自身が否定しているように「反戦の誓い」を新たにする故などではなく、はたまた原作者が忌み嫌った「かわいそうな戦争の犠牲者の物語」故でもなく、終戦という独特の雰囲気の中、両親を失ったある若くて未熟な二人の、蛍の光のようにはかない、いのちとこころの営みを写し取ったところに胸をうつ故なのかもしれません。
「葉末の一つ一つに、蛍の群がっていた、せせらぎをおおいつくす草むらの姿が、奇蹟の如く、えがかれている。ぼくの舌ったらずな説明を、描き手、監督の想像力が正しく補って、ただ呆然とするばかりであった。」(パンフレットの原作者野坂昭如氏による寄稿文より)
逡巡しながらも、原作者自身が二ヶ月あまり過ごした場所に監督やスタッフを案内し、その後作られたラフスケッチを見たあとの感想を綴った美しい文章ですが、何度かあった実写化の企画の後で、映画化に同意をする決意をした瞬間でもあったようです。
監督も原作者ももうこの世にはいませんが、作品は生き続け、毎年この日を迎えます。
天国で兄は妹にまた会えたでしょうか?私には、螢に囲まれてにこやかに笑っている二人の姿が見える気がします。
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