「観るべき作品」火垂るの墓(1988) 蜷川吝塀さんの映画レビュー(感想・評価)
観るべき作品
今日(2025/07/19)観ました。
過去に何度観たかも覚えていませんが、この作品は、時代に応じ、自分の価値観や現代社会の変化を考えながら観る映画、だと思います。
幼い妹と、少し年上の兄が、親戚の家での暮らしに息苦しさを感じ、使われていない防空壕で暮らし始める話です。
火垂るの墓は、ただただ悲しい話ではなく、時折楽しい場面や、ユーモアを感じさせる場面もあります。だからこそより一層悲しい場面が突き刺さります。
何より辛い場面は映画冒頭、ついさっき普通に会話した母が、空襲の被害に遭い、学校で無惨な姿で手当てをされていた場面。
そして、妹にそれを話さず、母に会えず静かに泣く妹を、少しでも楽しませようと鉄棒を始める兄の姿に、涙を抑えられませんでした。
学校に行かず、家の手伝いもしない兄妹に、悪態を吐く叔母の気持ちも分かります。同時に年端もいかない兄妹の気持ちも、今回理解できました。以前観た時には抱かなかった感情です。
ままごとの様な壕で生活、野菜泥棒、火事場(空襲)泥棒など、戦争がなければ間違いなく疎まれた行為の数々も、彼らにはやらざるを得ませんでした。何より火事場泥棒の際、少年は沢山の戦利品を得んと、嬉々として空襲のど真ん中へ走って行く場面は、とても悲しかったです。戦火に見舞われていなければ、中学生の少年はそんな感情は抱かないでしょう。
栄養失調からどんどん衰弱し、目の光を失ってゆく妹の姿は、アニメとはいえあまりにも辛く、直視に耐えません。
妹の死後、兄は妹を火葬。そのまま壕を出てそれきりです。
本作を観て、戦争は絶対に何があっても起こしてはいけないということは、一貫して抱く感情です。
一方で、兄妹で湯船に浸かる、茂みで用を足す、裸で海水浴などのシーンがあるので、外国の方や、若年層の方はギョッとするかも知れません。ここは国と国、時代のギャップとして解釈するしかなかろうと思います。
本作を「観たい」と思って観る人は少ないと思います。
しかし、国内外問わず薄れゆく第二次世界大戦の記憶は、本作の様なリアルな作品から後世に繋がってゆくと確信しています。
観たくない、でも観なくてはならない名作です。