劇場公開日 1988年4月16日

「たかが14歳、されど14歳。命への責務。」火垂るの墓(1988) とみいじょんさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5たかが14歳、されど14歳。命への責務。

2018年4月28日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

泣ける

悲しい

怖い

贖罪すべきこともあったかもしれないが、それでも少年は逃げなかった。

今なら中学2か3年生。家族なんて放って、自分のことに集中して、学業・趣味・友情・将来に思いを馳せ、没頭し、悩み、もしくは謳歌する年代。
 反面、国民学校初等科を11歳で卒業してすぐに働いていた子も多かった時代。16歳の特攻隊員・ひめゆり部隊員もいた。今よりは、”子ども”ではなく、自分のことは自分でと”半人前~一人前”の力が要求された時代。

将校の家族として比較的良い環境で暮らしていた家族。
 そんな家族にも、その日暮らしの人にも、区別なく降り注ぐ焼夷弾。
 戦争孤児となり、親戚の家を頼る二人。
 確かに叔母はきついのかもしれない。将校家族の利益にあずかろうという姑息な気持ちもあったかもしれないが、それなりに面倒は見てくれていた。
 終戦間際。食料等は配給制になる。頼ってきた孤児の分も出るの? 出たとしても、日に日に少なくなる。そんな中で家族に食べさせなきゃいけない主婦。日々のやりくりだけで頭痛いだろう。
 それなのに、勤労奉仕もせずに好き勝手している清太。皆が滅私奉公を強いられ、拒否すれば特高に目をつけられた時代。隣組等で相互扶助/相互監視されていた時代。叔母としたらご近所の手前肩身が狭かったのではなかろうか。
 もっと悲劇的な扱いを受けた人もいるという話もたくさんある。皆逼迫していた。
 叔母だって余裕がなかっただろう。
 反対に、大金を持っていること、将校の息子であることで、清太に驕りはなかったか?

終戦。
 今までの価値観がすべてひっくり返った時代。大人も子供も、皆混乱して、生きていくのが精一杯だった時代。
 買い出し。闇市。絢爛豪華な花嫁衣装が米一合もしくは数本のサツマイモに化けた話を聞く。そんな中で、現在でも野菜高騰時にキャベツ等が畑から盗まれたニュースが記憶に新しいが、この頃だって闇市で売るための泥棒も多かった。盗みの実行者は戦争孤児たちが多かった。清太一人なら見逃してもくれるだろうが、おじさんには闇市のための盗みかはわかるまい。
 頭を下げて分けてもらったら、節子を脇に置きながら手伝ったら、違う展開になったかもしれない。

後から、清太がこうすれば~、というのはたやすい。
 でも、戦争がなければ、彼は両親と学校教育の庇護のもとで、必要な対人関係も学べたはずだ。
 否、どうなんだろう。清太が親や学校から受けてきた教育は、”人の上に立つ者”としてのプライドではなかったか。こんな混乱・境遇に身を置くことは想定していなかった。
 子供が生きるために必要な力って何?学歴?勉強?特技?お金を稼ぐ力?
 ”社会性”という言葉一つとっても難しい。清太だって、以前の生活の中での”社会性”は身に着けていたのだから。

 自分の力だけでやれると思う独善。
 周りの状況を見ない・聞かない傲慢。
 何より自分の力量を客観視する力。何ができて、何ができないか。どういう力を借りなければいけないのか。借りっぱなしにならないためにはどうすればいいのか。
 これは、日本の終戦前後の話だが、世界にはこんな子どもたちはたくさんいる。災害にも置き換えられる話。
 日常生活にも通じる。自分の首を絞めるようなチョイスが多い人っている(私か)。
 「サポートを受けなさい」というのはたやすい。でも、サポートのネットワークから漏れる人って、サポートが提供するものと、自分のこうありたいのギャップが埋まらない人。”自分のこうありたい”を変えることって、結構難しい。

そして、

この原作は、野坂昭如氏の、妹さんへの贖罪・レクイエムと聞く。
 誰かの命・人生を背負うことに重荷を感じるなんて、大人でもあり得ること。
 「疎ましく思う」「投げ出したかった」なんて、誰でも一瞬頭をよぎる。
 それでも目の前の存在を放り出すことができなくて、やるべきことをやるの繰り返し。
 「もっとこうしてやりたいのにできない」と自分で自分を責めている人にとったら、映画鑑賞者の私達には愛おしい節子の表情・仕草・行動も、できない自分を責めているようで、嫌悪の対象となるだろう。
 でも、捨てて逃げることもせず、頼る人もいないのに、野坂氏も清太も頑張った。
 今の世、ネグレクトや遺棄する大人だっているのに。(せめて福祉に相談するか赤ちゃんポストにしてくれ)
 不幸にして、時代があんなだったから、節子(野坂さんの妹さん)は亡くなってしまったけれど、貴方のせいじゃない。それだけははっきり言える。

単なる戦争犠牲者の悲話ではない。
 人の助けを必要とする小さきものを守るために自分がどう動くのかとか、社会との接点・人との関わり方とか、アイデンティティとか、心の底の深い気持ちを揺さぶられる。
 ”孤独死”という言葉も頭がよぎり、身につまされる。
 だから、映画としては、どこをとっても一級品だけれども、鑑賞するのがしんどい。

とみいじょん
りかさんのコメント
2023年12月5日

絵柄可愛いですが、観るのがしんどく、8月に放送されてもあまり観ていません。
あの頃を生き抜いて来た方々の
辛さと強さを忘れてはいけないですが。

りか
りかさんのコメント
2023年12月5日

先に米もいくらか渡しているにもかかわらず、その米を皆で食べて無くなると、軍需工場で働くいとこ達とご飯で差をつけられたのは、清太達の親なら憤ると思いました。我慢の限界だったかなと思いますが、屋根と壁のある家を出たのが不味かったとは思います。
清太に歩み寄ることも伯母から太に手伝いをさせるとかの歩み寄りもあれば、と。やはり、大人の方だと思ってしまいます。

りか
りかさんのコメント
2023年12月5日

こんばんは♪
お返事いただきましてありがとうございました😊
本作原作も読んでいます。
実際の妹さんは、もっと幼い赤ちゃんに近い年頃だったかな、と思います。
清太と妹さんの幸せを真に願うべく書いてくださったレビューですね。あの伯母さんの家を出ない方が二人共長生きしていたかもしれない、ですね。

りか