「共感・理解がやや難しいために過小評価されているが、名作」平成狸合戦ぽんぽこ mary.poppinsさんの映画レビュー(感想・評価)
共感・理解がやや難しいために過小評価されているが、名作
高畑勲監督バージョンの 『トトロ』。
宮﨑駿監督は『トトロ』で まだ自然がたくさんある昭和28年を舞台にしたため
自然と人との共存において 希望を描けた。
ラストシーンは(このへんないきものは、まだ日本にいるのです。たぶん。)
しかし、
平成に入り 自然破壊がどんどん進み もう希望が消えそうな時代で 同じテーマを描くと、
「俺がトトロを描くと、こうなる」 と高畑勲監督が語ったという作品。
自然破壊の社会問題をテーマにしつつ、風刺や皮肉が強く、見るのに頭を使うので、
あまり小さな子供には向かない。小学校高学年から大人向けだ。
普通なら、自然破壊する人間が悪なら、 殺される野生動物たちは善として描くのに、
たぬきたちの姿に 人間の愚かさや 矛盾を投影して描いてるから 正直ややこしい。
テロリストのように手荒な手段ととるゴンタ達や、
仲間がけがしても 命すら落としても、 涙をこらえてるのかと思いきや笑いをこらえてしまった 浅はかで愚かなたぬき達。
闘いが終わった後、人間に化け(そこまでは良いが) 不動産屋となり儲けて、かつての仲間たちを裏切り死に追いやるたぬきまでいる。
虚しさが漂う。 これらの醜い姿はみな、 人間の姿を投影している。
かなり皮肉的に描いてるから、 普通なら「ここが感動して泣く場面」となる場面で、素直に泣かせてくれない。
主人公を善なるものとして描かずに 悪なる面も正直に描くのは、高畑勲監督の特徴でもある(『火垂るの墓』 然り)。 簡単には共感できないよう排除され、常に人間社会への懐疑がもやもやとついてまわることで、 視聴者が気持ちよく泣いたり笑ったりできず、エンタメとしての人気が伸びないのだと思う。
しかし、高畑監督は、人気つまり興行収入など気にせず、恐れずに社会問題に取り組み、自分が描くべき作品作りにこだわった。
奥深い作品であることには変わりない。 受け取る視聴者側が、高畑監督の思考レベルについていけてないのだ。これは宮﨑駿作品にも言えることだが、レビューで例えば千と千尋に「意味不明、グロイだけ。話に内容が無い」などと低評価する人が少なからずいる。 しかし、ジブリ作品の理解を深めるには、自分の持てるありとあらゆる知識を総動員し 感受性を研ぎ澄ませて見なければ、作品にこめられた多くの情報やメッセージを見逃してしまうのだ。
また、日本の民間伝承や アニミズム信仰、 伝統文化、歴史などを 知らない外国人には 理解は難しいだろう。 奇妙で想像力豊かで面白い、とは感じられるだろうが、 元ネタを知らないと面白さや深みに気づけないことや、情報過多になり疲れてつまらなく感じてしまうことがある。勿体無い事だが。
監督自身はこの作品を 自分なりの『トトロ』と言ったが、 私の感想としては、『千と千尋の神隠し』のように日本古来のあらゆる伝承を織り交ぜて コミカルに描いた『もののけ姫』という方が近いかなと思う。 もちろん『トトロ』のラストシーン(このへんないきものは…もういない)は重要なテーマとして要素に入っている。 『もののけ姫』の荘厳で神話的な語り口に対し、 こちらは落語の語り口でとても軽妙な雰囲気だが、「人間の業の深さによるシシ神退治」と同じテーマが描かれている。
そしてこの『ぽんぽこ』は、『耳をすませば』と直接つながっている。同じ舞台だ。
たぬきたちが「俺たちのふるさとを返せー!」と死んでいった場所、ここは 実在の場所 多摩ニュータウンとなり、
ほんの数年後、『耳をすませば』のしずくたちは たくさんの野生動物たちのしかばねの埋まった土を踏み、
生まれた時から「大自然」なんて無い世界、だから 「ふるさとってよくわからないんだ」とつぶやき、
「♪コンクリートロード、山を崩し 谷を埋め…」 と自虐的に替え歌を歌う。
それでも、友達やすきな人と出逢い ともに成長していくこの場所が、わたしのふるさと! という決意で 現代社会を生きる人間として「カントリーロード」(故郷への道)を歌うのだ。
私は このつながりに気づいた時に初めて、『耳をすませば』に感動することができた。
やはりジブリ。 原作者の作品の設定を はるかに超えて より深いものにしてくる。
いまひとつ作品を楽しめなかった…という人も、もう一度リベンジして、この作品にこめられたメッセージを感じ取ってほしいと願う。