「テレビドラマ脚本の巨匠、倉本聰と岡本喜八監督が組んだスピーディーな展開と役者のアンサンブルが見どころのポリティカルSF」ブルークリスマス ミラーズさんの映画レビュー(感想・評価)
テレビドラマ脚本の巨匠、倉本聰と岡本喜八監督が組んだスピーディーな展開と役者のアンサンブルが見どころのポリティカルSF
本作は1978年末に公開された本作は、UFOブーム(空飛ぶ円盤と飛来する宇宙人)だった70年代の中頃に倉本聰が原案を考えで映画化されたSFに分類される作品で、1977年の映画界では、いわるゆる『スターウォーズ』や『未知との遭遇』などが、アメリカで公開されて(ただし日本公開はどちらも1978年)大ヒットしたのがキッカケのSFブームで、日本でもそれに便乗した作品が『惑星大戦争』(1977年12月)『宇宙からのメッセージ』(1978年4月)などが急遽便乗で制作されていた頃
ネタバレあり
物語は大きく二部構成になっており冒頭に登場する自衛官の勝野洋のパートは後半にクローズアップされる2部と失踪事件を調べる仲代達也の記者が、謎の青い血を流す人間達の不気味な全容に辿り着くまでのスピーディーさとミステリアスなタッチの1部に分かれている。
東宝お得意の特撮を極力使わない方向で、UFOなどのネタを扱いモノを見せない事でリアルな描写をしており、役者のアンサンブルや見どころのポリティカルSF としてはなかなかの出来だが、SFブーム前の75年から企画されていたSF映画としてみると、いかにも日本的な情緒と描写があり、ルーカスやスピルバーグが描く作品と並ぶとやや野暮な面も見える。
野暮ったい面だと前半の仲代パートは、スリリングな側面もあるが、ニューヨークで謎の組織?に拉致されそうなる場面などは、かなり微妙な場面でそれまでの街頭での聞き込みや情報収集するドキュメンタリー的な部分と比べると場所やカメラ割と平坦で、アメリカ側の役者(日本映画によくある偽外国人感満載)にもあまり覇気が感じられないのは残念。
これも野暮ですが、何日もアメリカにいる描写があるのにずっと同じ服をきているのは、いかにも短いロケ期間で撮りましたな印象を受ける。(濃いめのブルーのジャケットとスラックスで街を闊歩するスラっとした仲代はカッコいいけどね)
2部になる勝野洋と竹下景子のパートは、男女の情感をメインに展開して1部とやや趣きが、変わり何となくイメージする倉本聰の劇を思わせる。
クラッシック音楽の使い方やラブホで都はるみがかかっていたり、破瓜の血を描写するのとかの感覚はかなり凄いが、熱心な倉本聰作品視聴者ではなかった自分でも漠然としたイメージの倉本脚本作品の臭いを感じる。
ただ、勝野・竹下の恋愛を含めた情感があまり見えず、どこか硬い演技の役者劇に思えるので、二人の悲劇的な最後もあまり迫ってこない。(ちなみに当時三船プロに所属していた二人は、社長の三船敏郎と懇意だった岡本喜八との関係で出演が決まったらしい)
役者陣だとやはり岡本喜八作品の常連でもある天本英世の出番はわずかだが天本と一緒のカットで存在感を出しまくる岸田森が凄い(そういえば、青い血はイカと同じと解説されるけど、天本英世の代表作的な役に仮面ライダーの死神博士があるけどアレの正体が怪人イカデビルなのはもしかして繋がりが!(妄想です笑)
終盤に青い血の人間を狩る場面は、音楽や描写も含めて岡本喜八作品から多大な影響を受けた海外でも人気のあるアニメ監督の庵野秀明が、自作で再現しているのは有名で、若いアニメファンの岡本喜八作品に興味を、持ってもらう効果も産んでいて、今一つ海外での知名度が弱い岡本監督の再発見や再評価に繋がる事を期待したい。
ただ、庵野作品を見ていると岡本喜八作品(倉本作品にも)に見られる戦争やそれに加担した権力者側への痛烈な批判や反骨精神は受け継がれておらず、常に体制派に寄った作品が多いのは気になる。
余談
岡本喜八監督とSFの取り合わせも珍しい印象ですが、SFアニメ映画の『科学忍者隊ガッチャマン』(1978年)の制作総指揮があるけど、タツノコプロの鳥海永行監督の希望で監修した作品で、そのギャラ300万円を受け取って直ぐに高級オーディオ一式を購入して高い果たして後の税金の支払いが大変だったと岡本監督の奥さんが言っていた。(ちなみ岡本喜八監督の奥さんは『ブルークリスマス』にノンクレジットですが仲代達也の奥さん役でちょっと出演してます)
岡本喜八監督とSFの取り合わせについては、もう一つ逸話があり、岡本喜八映画の常連俳優の佐藤允氏の息子さんで、映画監督や岡本喜八作品にも役者として出演している佐藤闘介氏が以前にSNSで呟かれていたか、岡本喜八監督の家に遊びに行った時に監督が、映画の企画書を作成していてその中にアニメ映画化された菊地秀行原作の人気SF伝奇作品の『吸血鬼ハンターD』(1985)の実写版の企画があったと証言しており、事実原作者にも東宝から金田賢一主演で実写化の打診があったと後書きに記されている。
(ちなみに金田賢一は名投手として活躍して後にロッテ監督などで有名な金田 正一の息子です)
岡本喜八監督特集のトークショーで、喜八プロダクション代表者の前田氏に『吸血鬼ハンターD』の企画について質問した事が、その企画については存じないと回答をもらったが、様々なジャンルの企画やオファーが存命中にあったとのこと
結局『吸血鬼ハンターD』の実写映画は作られ無かったが、後に東宝で人気アイドルだった少年隊主演のSF映画『19ナインティーン』(1987)が公開されたが、ストーリーが近未来1998年日本に、未来から来たタイムパトロールが吸血鬼と対決する話しで、大まかな設定などを推測するとおそらく『吸血鬼ハンターD』の企画を原作や原案にならない様にいじって作られた作品だと思う。
ちなみに監督は山下賢章氏でこの人は、何本か岡本喜八の助監督をしていた人で岡本家にも出入りしていたはず。(ちなみに岡本喜八の家には、ひっきり無しに岡本組の映画関係者が出入りしていたそうです。)
『19ナインティーン』自体はアイドル映画としても作品としても標準的な出来で、印象に薄いがウキペにある情報で、フランスと中国にロケをしたと記載されているが、映画を見たなら分かるけど明らかな間違いで全て日本ロケで完結している。
007シリーズのオファーについて
日本が舞台になった大作『007は二度死ぬ』(1966年)が企画された時に、カンヌ映画祭に参加していた東宝の藤本真澄は、007のプロデューサーで知られるアルバート・ブロッコリーと会談して日本ロケ部分の撮影ができる日本人監督を紹介して欲しいと提案されて岡本喜八監督にオファーが来たが、断ってしまった経緯がある。
007シリーズの様な作品を撮りたいと思っていた岡本喜八監督ではあるが、雇われの共同監督で海外の大作作品だと恐らくいろいろなしがらみもあり自分でコントロール出来ないと判断したのだろう。(しかも数年拘束される可能性もあるので自分の作品を手掛けた方がいいのも分かる)
ここからは『ブルークリスマス』元宣伝スタッフ)の富山省吾さん(現在の日本映画大学理事)の解説で知った事ですが、アメリカとフランスのパリで隠し撮りメインのロケしていて、現地スタッフ以外は最小限の人数で撮影していたそうですが、フランスロケの時に八千草薫さんの旦那で岡本喜八監督の師匠でもある谷口千吉監督が通訳も兼ねて同行すると言い張り岡本が、難色(下手すると演出にも口だしされる可能性があるので良く分かるな)を示したが、強引に同行したそうです。ちなみに谷口監督の通訳は全く駄目だったそうです。(語学堪能はロケに同行する為のホラだった様子)
予算の面もあると思うけど、海外ロケの場面は明らかに16ミリフィルムで撮影しているので、劇場のスクリーンで日本の場面と比較するとかなり画質に差があるのは少しノイズなる印象だが、全体の撮影は流石の木村大作氏なのでレベルは高水準だと思う。
余談ですが当時の宣伝ポスター(勝野洋と竹下景子ツーショットアップのやつ)の真ん中にある黒いシルエット処理されている男女で、ライフル銃を持っている人物(奥側)は「マツケンサンバ」の振付け師で、有名な真島茂樹氏だそうです(当時は日劇のダンサーだった)
倉本聰は75年頃から本作の原案脚本を立てて、それにフジテレビの嶋田新一プロデューサーがのって、監督を岡本喜八に依頼した経緯があるが、台詞の変更を良しとしない倉本の姿勢があり、本読みなどには参加していない形で制作は進み、倉本聰脚本をイジらずに撮影した当初は2時間半以上あったのを刈り込んで、現在のカタチになったそうです。
映画全体はスピーディーさと役者のアンサブル演出は、ヘビーな陰謀劇で重い面もあるが見事で面白い作品で一見の価値はあると思う。