「彼は、生まれるべき存在だったのか…?」フランケンシュタイン対地底怪獣(バラゴン) 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
彼は、生まれるべき存在だったのか…?
東宝特撮1965年の作品。
米映画会社ベネディクト・プロと共による、日米初合作の怪獣映画。
すでに注目されていた東宝特撮。更なる海外輸出に向けてへ。
そんな東宝特撮がキングコングに続いて手掛けた海外ビッグモンスターが、フランケンシュタイン!
本作でのフランケンシュタインは、オリジナルのフランケンシュタインとはちと違う。
オリジナルのフランケンシュタイン博士とその怪物が知れ渡っている世界という設定。
第二次世界大戦末期。ドイツの科学者が造り出した“あるもの”がUボートを犠牲にしてまで広島の研究施設に運び込まれる。
それは、“フランケンシュタインの心臓”。
永久に生き続けるその心臓で日本軍の戦局を変える不死身の軍団を造ろうと目論んでいたが…
原爆投下によって、それは消えてしまった。心臓も。が…
戦後、広島各地で小動物が何者かに食い殺される事件が相次ぐ。
当初戦後の浮浪児と思われたその犯人は、あの失われた心臓から蘇生したフランケンシュタインである事が判明。
放射線医学研究所のボーエン博士と助手の季子の元に保護されるが、みるみる成長。あっという間に20m超えの巨人になったフランケンシュタインは、季子の制止の声も振り切り、研究所を脱走する。
フランケンシュタインが通ったと思われる各地の跡に、家畜や遂には人までも襲われた被害が。
確かに凶暴性も見せていた彼だが、自分から人を襲う事などするだろうか…?
フランケンシュタインを信じるボーエンと季子。
時を同じくして、地底に巨大な怪獣の存在が…。
海外輸出を意識して、確かにこれまでの東宝特撮より“海外色”が濃い印象。
フランケンシュタインを題材にしたり、ニック・アダムスを起用したり、海外公開用に特撮シーンの撮り足しやラストシーンの変更が行われたり。
今見れる大ダコが出現するラストシーンは、海外用に変更されたもの。本来のラストシーンは、フランケンシュタインが突如起きた地割れに呑み込まれるというものらしい。(←ちなみにこちら、今ではオリジナルの方が幻になっているらしい)
また本作、企画もコロコロ変わり。
当初はベネディクト・プロが『キングコング対フランケンシュタイン』として東宝に打診。
それが、海外で評判の良かった『ガス人間第一号』の続編企画『フランケンシュタイン対ガス人間』へ。
『フランケンシュタイン対ゴジラ』となり、ゴジラの部分が変更されて新怪獣バラゴンに。
まあ『キングコング対ゴジラ』ならまだしも、完全ヒト型のフランケンシュタインとゴジラが闘うって、いまいち何だか…。
結局これで良かったんじゃないかなぁ。
東宝特撮の中でも特別色々製作事実や企画がある本作だが、作品自体は非常に真摯。
本多監督も撮影の前にオリジナルの『フランケンシュタイン』を再見して、厳粛な気持ちで臨んだという。
原爆投下シーンに流れる伊福部音楽は、まるで荘厳な鎮魂曲。“フランケンシュタインのテーマ”も哀しい旋律が感じ取れる。
ゴジラ映画と違ってミニチュアの大きさは半分。市街地や森林のミニチュアはよりリアルで、円谷特撮演出の腕の見せ所。
それにしても本作、ニック・アダムス演じるボーエンと水野久美演じる季子のシーンだけ切り取れば、アダルトな雰囲気のドラマ。
それほど巧みで深みや色恋は濃くないが、雰囲気は充分。
二人だけのドラマシーンだけ見れば、とても特撮怪獣映画とは思えないだろう。
この流れは姉妹作『サンダ対ガイラ』にも引き継がれる。
しかしやはり、“ドラマ”でも見せ場を持っていってしまうのが、フランケンシュタイン。
まず演じたのは、当時劇団所属の俳優、古畑弘二。
耳に障害があり、売れず、辞めようと思っていた時、風貌がフランケンシュタインにぴったり!…と大抜擢。
氏にとっては唯一の“主演”で、その後の消息も分かっていないようだが、劇中で見せた哀愁たっぷりの演技、身体を張ったアクションは特撮ファンの心に永遠に残る。
本当に本作は、フランケンシュタインの物語だ。
彼は、生まれるべき存在だったのか…?
生まれた時から、その醜さから、人から差別/偏見の対象。
そんな彼が少しでも凶暴さを見せると、すぐ鎖をして檻の中へ。脱走してからは“殺す”対象に。
また彼には“障害者”も見て取れる。
無論、文字を書く事など出来ない。言葉と言葉で意思の疎通も。
そもそも“感情”など無い。
…いや、果たしてそうだろうか。
季子に対しては母親の言うことを聞く様に大人しくなる。脱走した時、季子のアパートへ別れを告げるように会いに来る。終盤、バラゴンに襲われそうになった季子の危機に駆け付ける。激闘の最中、崖から落ちて怪我をしている高島忠夫演じる川地を見つけ、助ける。
“感情”の無いヒトにこんな人らしい行動が出来るだろうか。
彼だって怖いのだ。人が。人の世界が。
フランケンシュタインの仕業と思われた家畜や人の被害。
その犯人は、地底怪獣バラゴン!
夜行性。肉食。四足歩行。
目玉をギョロギョロ。印象的な耳と光る角。
油や熱源を好み、口から熱線を吐く。
普段は地底を掘り進み、地上ではのそのそと動くが、戦闘時は驚異的なジャンプ力と俊敏さ。
見た目も設定も素晴らしい、THE怪獣!
実は密かにお気に入りの怪獣の一体。かのギレルモ・デル・トロ監督も「彼は美しい」と絶賛したほど。
クライマックスのフランケンシュタイン対バラゴン。
ヒト型巨人対怪獣は、後の『ウルトラマン』の前身となるほど多大な影響を与えたという。
大火災をバックにした格闘シーンは迫力の見せ場は勿論、合成も素晴らしく、緊迫を煽る。
激闘の末、バラゴンに打ち勝ったフランケンシュタイン。
が、彼を待ち受けていたのは…
確かに唐突で何で!?…な出現だが、それが“大ダコ”であっても本来の“地割れ”であっても、つまり意味するものは変わらない。
悲劇。
彼は、生まれるべき存在だったのか。
それとも…。
フランケンシュタインを通して描く、高いドラマ性、悲劇性、我々へのメッセージ。
特撮作品としても見応えや娯楽性もたっぷり。
改めて見て、東宝特撮の“名作”として名高い。
地割れバージョン、池袋のオールナイトで観ました。タコバージョンはTVでも何回か観ましたが、ラスト近く水野久美が「駄目だわ・・」と言うのに毎回無性に腹が立ちます。