吹雪と共に消えゆきぬ
劇場公開日:1959年2月4日
解説
「舞踏会の手帖」の型式で田中澄江が書き下した脚本を「野良猫」(東宝)の木村恵吾が監督した。撮影は木塚誠一。
1959年製作/94分/日本
劇場公開日:1959年2月4日
ストーリー
晩秋の湯ケ原--園村家の別荘の庭では未亡人の邦代が爺やと二人きりで若い日の想い出をたぐっていた。彼女は戦死した兄の親友達に慕われ、また、恋されたが、その誰とも結ばれず十五も年上の著名な園村画伯と結ばれた。そしてこの夏夫に死別したのだ。彼女は亡夫の遺骨納めに長崎へ行くのを機会に、今は各地に散在している昔の親友達を歴訪しようと思い立った。最初に訪れたのは江藤稔、彼は教会の司祭を勤めまた幼稚園の先生としてまだ独身で暮していた。神戸にいると聞いた森五郎を探し廻った邦代はクラブを経営する彼を探し当てた。しかし彼の正体はマリという情婦を持つ密輸団の首脳であった。戦争で片足を失ったのが日蔭へ追いやった動機だが、若き日に自分と結ばれなかったという想い出があることも知った。想い出の「山の唄」で邦代と踊る彼の目は濡れていた。その様子を見て嫉妬に狂ったマリの密告で、彼は官憲の手に捕えられていった。次ぎに訪れた西原仙三は戦死してい、彼の面影だけに生きている母が淋しく暮していた。帰途、熱海の遠山家でもアル中になってしまった武男の不幸な姿を見た。そして、彼女は最後の一人、北アルプスの山案内人北川守を訪ねた。暖い部屋の中で二人は失われた青春の想い出の糸をたぐった。やがてそれが未来の希望へと育ちかけたとき、雪崩で遭難したという知らせがきた。彼は若人の命を救いに吹雪と共に消えて行ったのだ。つまり、そのとき、彼自身も遭難してしまったのである。スノウボートで静かに送られてきた遺体に邦代は顔を埋めた。やがてダビにふされ、山肌を紫色の煙が静かに登って行った。邦代は思い出のアルバムを燃えさかる火中に、力なく投じた。