劇場公開日 1996年8月3日

「通天閣愛好家向け」ビリケン 因果さんの映画レビュー(感想・評価)

3.0通天閣愛好家向け

2023年10月23日
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『どついたるねん』『王手』に続く通天閣三部作のオチを飾る本作だが、上記2作に比べるといささかパンチが弱い。好き勝手やっているようで実のところそこまで変なことはしていない。『どついたるねん』のようなヒリついた沈黙もなければ『王手』のような異世界としての「大阪・新世界」もない。ビリケン様というモチーフを軸に捻りのない大阪人情ドラマが淡々と展開されていくだけだ。画面の色調がセピアっぽくなかったら阪本順治の映画であるかどうかもわからない。

ただ、阪本順治が本当に通天閣を愛していて、通天閣近辺に住まう人々もまた阪本順治を愛しているのだという相思相愛の図式を看取することはできた。清々しいくらいのオールロケ撮影。いったい何日間通天閣展望台を貸し切ったのだろう。とはいえ通天閣のInstagram公式(@tsutenkaku_official)を見ればわかるように、通天閣はマジで新世界周辺の一般的な生活に水準を合わせている。セブンの生ハムロースとストロングゼロを「今日の晩酌でーす」という文言とともに投稿する公式アカウントが他にいるとは思えない。とすれば本作の撮影も「ええよええよ、いくらでも好きに使うて!」といった具合にトントン拍子で進んでいったのかもしれない。

俺は生粋の関東文化圏人だが、通天閣に敵う象徴性を持った鉄塔は今の日本には存在しないように思う。東京タワーは小綺麗すぎるし、スカイツリーは歴史が浅い。船堀タワーにいたってはそもそも認知度が低すぎる。浅草凌雲閣なんかが現存していたら話は違っていたかもしれないが。108メートルという高さがちょうどいいのかもしれない。見上げても首が痛くならない高さ。それが大阪の人々に親近感を抱かせている。

こんな面白い鉄塔があるのだからそれを映画に刻印したいという阪本順治の気持ちは痛いほどわかる。本作の「大阪万博の影響で通天閣が取り壊されそうになる」という物語展開には阪本順治の強い愛着ゆえの性急な危機意識が色濃く表れているといえる。ただ、繰り返すが映画として面白いかと言われると首肯しかねる。死ぬほど通天閣が好き!という方以外にとっては特に見る意義のない作品だろう。

因果