人妻集団暴行致死事件のレビュー・感想・評価
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それほど深刻なタッチで描かれていないので,うっかりすると気持ちよい...
それほど深刻なタッチで描かれていないので,うっかりすると気持ちよい感じで終わってしまうけれど,やはりその奥には気持ち悪さがある.百姓や染物の家庭に生まれて家族に愛されたり見放されたりしている青年たち.団地や工場の誘致を行うビジネスマンや新しく住み始めた人々との関係が,仕事や女性関係,居酒屋での生活を緩やかに息苦しくしていく.生活の目標も性的な楽しみも先細りしていく中で,運悪く起こる出来事.事件は起こってしまった以上,あとから感情を込める必要はないのだ.ただ胸糞悪いのは,事件で死ぬことによって遺体は解剖され,火葬の手続きもお役所仕事の中で月並みな正義感の刑事の命令を飲まないといけないことだ.おやっさんがすぐに通報せずに死体とともに風呂に入ったことも,その後の経過を見る限りではわかってしまう.環境のことを摘発することもなく,ツイてなかったということ以外にいうことができない人たちの悲しみを少し思ってしまう.
抑制と省略が行き届いた、ハードな成瀬的作品
日活ロマン・ポルノ時代の名作の一本なのだが、題名が題名だけにあまり評価されてはいない。しかし、私の中では日本映画の歴史でも、これは名作の一本だ。
名作の理由のひとつは、まったく説明的なセリフがない、状況と仕草だけのきれいに省略された、佐治乾の見事な脚本だ。無鉄砲で甘ったれた若者たちと美しい妻をもつ河舟の主人の関係性を、特に説明をすることなく、物語の流れの中だけで観客に理解させてみせるのは、本当の脚本のあり方として高く評価されていいと思う。この作品の脚本は、「日本シナリオ大系」にも掲載されているので、脚本家を志す人にはぜひ一読をすすめたい。
その脚本を生かした田中登の演出も、ポルノ映画なのにハードなものもなく、淡々としたもので好印象をうける。それでも当時の一般映画よりかは少しハード(今の映画のレベルから観ると一般映画となんら変わりはない)だから、抑制された作品が多い成瀬巳喜男に匹敵する演出力を見せていると言っても、私は過言ではないと思っている。
河舟の主人が室田日出男、無鉄砲な若者のひとりに古尾谷雅人と、名優がそろい踏みなのだが、その二人とも鬼籍の人となった。その意味でも、この作品は貴重だと思う。
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