劇場公開日 1958年1月15日

「無味乾燥な日々を過ごす横川が石井と再会した途端に急変、秘めていた激情を発露させる高峰秀子氏の演技も実に良いですね。」張込み(1958) 矢萩久登さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5無味乾燥な日々を過ごす横川が石井と再会した途端に急変、秘めていた激情を発露させる高峰秀子氏の演技も実に良いですね。

2025年5月11日
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鑑賞方法:映画館

悲しい

神保町シアターさんにて特集企画『横溝正史と松本清張――映画で味わう至高のミステリー対決』(2025年5月3日~30日)開催中。
本日は『張込み』『黒い画集 ある遭難』『けものみち』の松本清張作品3作をはしご鑑賞。

『張込み』(1958年/116分)
原作・松本清張氏、『砂の器』の野村芳太郎監督、脚本・橋本忍に加え、山田洋次氏も助監督として参加した超豪華布陣。
映画化に際して、松本氏と橋本氏が警視庁に取材、原作の単独張込みから若手とベテランのバディに変更したことで、警察側の動向や刑事の心理描写がリアルになりましたね。

本作が出色なのは、追跡中の犯人の昔の恋人を張込むため、新幹線開通前、蒸せるような暑さのなか、横浜駅~佐賀駅の列車移動シークエンスが実際の車中で一昼夜撮影、冒頭長尺で採用されている点。
当時の記録としても貴重ですが、「張込む」という画替わりしない題材を飽きさせないよう冒頭に動きのあるシーンを差し込む橋本忍氏の脚本は心憎いですね。

張込みを続けることで、次第に犯人・石井(演:田村高廣氏)の昔の恋人・横川さだ子(演:高峰秀子氏)に心惹かれていく若手の柚木刑事(演:大木実氏)の心の機微、相棒のベテラン刑事・下岡を演じる宮口精二氏の『七人の侍』の久蔵とは180度全く違う軽妙洒脱な演技が実に良いですね。

特に石井と別離後、生活のためケチな銀行員の後妻となって、無味乾燥な日々を過ごす横川が石井と再会した途端に急変、秘めていた激情を発露させる高峰氏の演技も実に良いですね。

矢萩久登