華岡青洲の妻のレビュー・感想・評価
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女同士の愛憎と相克を深く描いている
これは凄まじいお話しでした。
江戸時代末期の医家の妻である高峰秀子さんと、その嫡男に嫁いだ若尾文子さんが、夫を巡って凄まじいマウント合戦をする、というお話し。
基本的には、家の奥向きの実権を握っている高峰さんが若尾さんをイビる構図なのだが、聡明で気丈な若尾さんも徐々に権力を拡大。
結局、嫁姑の勝負は、年老いた母を労るために息子が嘘をついたことで、ショックを受けた高峰さんが悶絶死。一方の若尾さんも、夫のために麻酔薬の人体実験に身を捧げて失明する、という結末に至ります、
若尾さんが珍しく年老いた姿までを演じて物語は終わる。
医者の妻の苦労話かと思ったけれど、全く違う女同士の愛憎と相克を深く描いており、物凄く面白かったです。
市川雷蔵さんが若尾さんの夫役で医者の華岡青洲を演じているけれど、ほとんど刺身のツマでした。
美談じゃなかったんだ
有吉佐和子原作の小説を映画化。
原作者の母方の郷里・紀州(和歌山)を舞台に、華岡青洲が世界初の全身麻酔による手術を家族の犠牲的献身によって成し遂げる様子を、彼の家庭内の軋轢を軸に描く。
原作小説も映画も存在を知っていた程度で、そこから洩れ伝わる話を美談と捉えていたのでヒューマンタッチの内容を予想してたら、まさか嫁姑問題の話だったとは…。
原作小説には作者の潤色が多いらしく、作品についてSNSで検索すると内容を修正するような指摘が幾つも出てくる。
頸動脈付近の悪性腫瘍で為すすべなく死を迎える小陸の「私は二度と女子に生まれとうない。嫁に行かなかったのが何よりの幸せやったのやして。嫁にも、姑にもならんで済んだのやもん」という告白こそが、男社会で当たり前のように女が不幸になることへの作者自身のアンチテーゼなのだろう。
新藤兼人が脚本を担当。
豪農だった生家が没落するさまを実体験して育った彼は、名家の虚飾や欺瞞を容赦なく活写している。
終盤、乳癌の手術を控え、患者の心情に寄り添うことなく実績を作れることを喜ぶ青洲。
演じる市川雷蔵の無邪気な様子と、加恵役の若尾文子の無表情とのコントラストが印象的。
最初は陰影が美しく見えたモノクロの映像も、加恵の宿命を暗示するように、次第に重く残酷にのしかかる。
本当は救いようのない原作の雰囲気を、希望溢れるヒューマンドラマに仕立て直した黒澤明監督の『赤ひげ』(1965)とは好対照な作品。
NHKーBS4Kにて初観賞。
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