劇場公開日 1967年10月20日

「青洲の成功譚でも妻の美談でもなかった」華岡青洲の妻 La Stradaさんの映画レビュー(感想・評価)

未評価 青洲の成功譚でも妻の美談でもなかった

2025年8月16日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 日本最初の麻酔外科医である華岡青洲の名は知っていたし、彼の妻が自ら進んで全身麻酔の人体実験の対象となった事も知っていました。そして、有吉佐和子さんがそれを小説にしてベストセラーとなった事も読んではいないが知っていました。でも、妻の献身のそんな絵に描いたような美談をどうして有吉さんが自作で取り上げたのかは不思議に思っていました。これは、その有吉原作の映画化作です。

 なぁるほど、この映画を観て、有吉さんが自作に取り上げた訳が分かりました。本作は、麻酔薬完成に至る青洲の成功譚でもなければ、妻の自己犠牲の美談でもありません。一人息子の青洲を溺愛し、その出世と成功を祈る母(これを高峰秀子さんが演じ、その迫力が凄まじかった)と、その母の冷たい圧力に屈しまいとする妻(若い若尾文子さんも熱演)の嫁姑物語だったのです。しかし、それは橋田寿賀子ドラマ的なグズグズ・ホームドラマではありません。この時代にはこんな形でしか生き方を見つける事が出来なかった女性達の異議申し立てが潜んでいるのです。現代的に観ればフェミニズム・ドラマの萌芽と言ってよいかも知れません。

 市川雷蔵映画祭で上映される本作の雷蔵=華岡青洲は嫁姑問題は見て見ぬふりをして自分の仕事にだけかまけてる無責任男で、ほんの脇役にしか見えないのが皮肉でした。

 ちなみに、本作では、アヴァンタイトルの造りも、遠近感を生かした映像の構図やカメラ割りもかなり現代的でカッコよかったな。

La Strada