劇場公開日 1977年6月18日

「過酷なロケの連続だったことはスクリーン越しからでもヒシヒシと感じ、現場の空気や極限の緊張感を共感、体感ができます。」八甲田山 矢萩久登さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0過酷なロケの連続だったことはスクリーン越しからでもヒシヒシと感じ、現場の空気や極限の緊張感を共感、体感ができます。

2025年5月4日
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鑑賞方法:映画館

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「午前十時の映画祭15」ゴールデンウィーク期間中はサバイバル巨篇『八甲田山』4Kデジタルリマスター版を上映中。TOHOシネマズ新宿さんにて鑑賞。

『八甲田山』(1977年/169分)
監督は黒澤明映画で5作品チーフ助監督を務め『日本沈没』(1973)で記録的な大ヒットを飛ばした森谷司郎氏。脚本は『羅生門』『生きる』『七人の侍』をはじめとした黒澤作品や『切腹』『仇討ち』『侍』『砂の器』などの名作を生み出した橋本忍氏。撮影は木村大作氏、製作にも名匠・野村芳太郎監督が参画した豪華な布陣。

キャスト陣も弘前側の雪中行軍中隊長に高倉健氏、青森側の中隊長に北大路欣也氏。
弘前側の上官に丹波哲郎氏、藤岡琢也氏、青森側の上官に小林桂樹氏、三國連太郎氏、加山雄三氏、神山繁氏。
雪中行軍にも緒形拳氏、森田健作氏、前田吟氏、東野英心、さらに女優陣も栗原小巻氏、加賀まりこ氏、秋吉久美子氏と当時の一流スター、ベテラン勢が一堂に会する豪華なキャストだけで圧倒されます。

そして何と言っても本作の驚異的なところは、ずば抜けて世界一の積雪をほこる八甲田山で実際に撮影を敢行した点。
キャストの顔が判別もできないほどの猛烈な吹雪のなかや、実際の雪崩のシーンなど過酷なロケの連続だったことはスクリーン越しからでもヒシヒシと感じ、現場の空気や極限の緊張感を共感、体感ができます。
制作環境が大幅に改善された現在では本作のようなロケは難しいでしょうが、本物の大自然の迫力、特に現地の空気感はCGでは伝えきれないでしょう。

さらに当時の歴代配収新記録を打ち立てた誘因は橋本忍氏の脚本力によるところも大きいですね。
高倉健氏の弘前隊と北大路氏の青森隊の成否をわけた二隊のストーリーを同時で進めつつ、失敗した青森隊には不遜で独断、現場の部下の助言を無視して過誤な判断を下す愚かな上官(演:三國連太郎氏)を濃密に描くことで、明治時代の戦争モノにも関わらず、現代社会にも通じる身近な中間管理職サラリーマンの悲哀と共感を得られる作品に仕上げて、実に巧み。
橋本作品は社会派作品を多く手掛けておりますが、実際は世間の耳目が集まる題材を選定、きちんと娯楽作として昇華、世間の空気を敏感に察して、多くの作品がハッピーエンドにならないのが特徴。本作に続く『幻の湖』(1982)の失敗がなければ、さらに多くの名作、傑作に出会えたかもしれませんね。

絶望の淵に立たされた北大路氏が発する「天は我々を見放した」も当時幼稚園でもブームで、宣伝面も実に上手かったですね。
撮影、キャスト、脚本、音楽、宣伝…と様々な面で際立って成功した日本映画の代表作ですね。

矢萩久登
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