「軍歌『雪の進軍』が哀しく響く名作」八甲田山 Haihaiさんの映画レビュー(感想・評価)
軍歌『雪の進軍』が哀しく響く名作
1977年公開。
帝国陸軍で発生した集団遭難事件を描いた。
製作に東宝などと並んで、創価学会関連のシナノ企画の名前があることに目がいく。
1973年にも東宝・シナノ企画の共同製作、橋本忍脚本で、池田大作会長の伝記映画『人間革命』、
1976年には同じ陣容で『続・人間革命』が公開されている。
単にビジネスとしてのつながりなのか、
宗教の大衆浸透の手段なのか、
いずれにしても、当時はお互いの利害が一致していたのだろう。
原作は新田次郎の『八甲田山死の彷徨』。
監督:森谷司郎
脚本:橋本忍
主な配役
【弘前31連隊・徳島大尉】:高倉健
【青森5連隊・神田大尉】:北大路欣也
ほかに、三國連太郎、加山雄三、丹波哲郎、栗原小巻、秋吉久美子、前田吟、島田正吾、大滝秀治、東野英心、緒形拳、小林桂樹、神山繁、森田健作、加賀まりこ、田崎潤など書ききれないほどのオールスターキャストだ。
当時の帝国陸軍で企画された冬季演習、雪中行軍で起こった悲劇を、リアルかつ重厚に描いた大作だ。
公開当時、劇場で鑑賞して以来、たびたび観てきた。
何度観ても素晴らしい。
映画なので、人名の改変やエピソードの脚色などは当然あるのだが、本当によく出来ている。
◆雪中行軍自体に必要性はあった?
◆事前準備や防寒ノウハウの周到さが生死を分かつ
◆「上官の命令は絶対」の理不尽さ
◆極寒の八甲田山のとてつもない脅威
「天は我々を見放したぁ…」のテレビコマーシャルは、
鮮烈な印象を残したし、
遭難案件ではテーマが暗すぎると危惧された興行面も、
製作費7億円の4倍に迫る収入があり、空前の大ヒットとなった。
演者や製作陣に破格の利益分配がおこなわれたらしい。
東北地方以外に住む日本人は、
国内にあんなに過酷な天候があることを知らなかっただろう。
私は知らなかった。
本当に驚いた。
ということは、当時の軍司令部も知らなかっただろう。
観ていて肌を突き刺されるような光景が続く。
さっきまで生きていた人間が、氷像になる。
画面を覆い尽くす暴風雪は、観ているだけで呼吸が苦しくなる。
高倉健、北大路欣也などスター陣の軍服姿、
軍人らしいキビキビした所作、
栗原小巻、秋吉久美子ら女優陣の抑制された演技は非の打ち所がない。
芥川也寸志の音楽も秀逸。
挿入されている軍歌『雪の進軍』の軽妙なメロディーが悲劇の前奏曲となっていて悲しみを増幅させる。
物語の舞台となった明治(日露戦争前)、
公開された昭和、
それぞれの時代の空気が感じられる邦画の名作。
☆5.0