劇場公開日 1968年5月25日

初恋・地獄篇のレビュー・感想・評価

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1.5脚本・寺山修司という地獄

2025年8月18日
iPhoneアプリから投稿

さあ羽仁進を観るぞ!と勇みながらビデオデッキを立ち上げたものの、冒頭で「寺山修司」の名がデカデカと表示された瞬間に何か悪いものを直感し、それは現実となった。

ショートコント的に連発される過激な表現主義的描写は、隣接するシークエンスと共鳴することも時間経過との比例関係を取り結ぶこともなくただただ単発的に並べ立てられていく。気を衒った画角を狙ったり女の裸を躊躇なく活写したりするような小手先のテクニックで映画が色気を帯びるわけもなく、ひたすら退屈な2時間を強いられた。

物語にしてみても「拗らせた青年がファム・ファタール的な女との出会いによって煩悶する」という凡庸きわまる代物であり、今更何か言及する気にもならない。

映画にいっちょかみしようとする左翼系演劇人の空転ぶりは『田園に死す』で既に証明済みであるのに、こともあろうに映画人が彼らの暴挙に手を貸してしまうとは何事か。本作だけでは羽仁進の本懐は図りかねるとは思うものの、本作のような最悪の一例を知ってしまうともはや気が進まない。

ただ、70年代の上野周辺の雰囲気を知るための映像資料としての価値はあったように思う。

23区東部が東京最大の都市であった頃はそこかしこに市電が張り巡らされ、東北の玄関口たる上野もまた現在とは全く異なる活況を呈していた。

おりしも石川淳『焼け跡のイエス』を読んでいたのだが、そこで繰り広げられていた混沌ぶりに、私はふと本作の上野を重ね合わせていた。『焼け跡のイエス』では上野の市場を抜けた主人公が人気のない上野東照宮で浮浪児に襲撃される一幕がある。混沌と静謐、聖と俗の隣接性が上野という街の磁力であることを見抜いていた石川による見事な描写だ。

『初恋・地獄編』もまた主人公が「友人」である少女と上野公園裏手の寺院で逢瀬を重ねるのだが、ここに関しては上野という空間の精神への卓越した理解があったと評価できる。本作のロケ地を選定したスタッフにだけは手放しの賞賛を送りたい。

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因果

3.5ヌードモデルと心を閉ざした若者の、壊れ易くして実らなかった初恋物語の虚しさ

2021年12月26日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

羽仁進監督作品の初見学。この一作だけでは、羽仁監督の演出の特徴を述べることは出来ない。ドキュメンタリー映画の演出タッチは窺えるが、それ以上の個性は感じられなかった。関心を抱いたのは、この60年代後半の時代を背景とした青春映画の暗さである。個人的な子供時代に経験した世の中の雰囲気は、もっと明るく未来に対して楽観的だったはずだが、日本映画界の斜陽とリンクするかのように映画の内容も暗い。強いて挙げれば、大人と子供の間にあった価値観の相違が戦後の高度成長と共に広がり、安保問題と反戦の主張を告発した学生運動の社会的なムーブメントによる焦燥感の深刻さだろうか。若者の価値観がひとりでに大きな社会批判となり大人社会と対立して、その闘争の激しさが社会不安を煽っていた。しかし、その状況下で傍観していただけの若者がいたことも、また事実である。
この映画の主人公は高校を卒業後大学には進学せず、家業を継いで地道に生活する若者だ。だから授業をボイコットしてまで抵抗した学生運動の背景は描かれていない。それなのに暗いイメージにつながるのは、彼の中に人生の目標がなく、あくまで生きて行くだけの為に家業の仕事がある。そんな主人公の若者らしい欲望は、女性との性交渉に直結する。街で知り合ったヌードモデルの女性と連れ込み宿へいって行為に及ぶが、上手く行かない。と言うのも、彼の家庭環境の特殊性が大きく影響している。育ての両親がいて、その父親が同性愛を強いる少年期があったためである。映画は、そんな孤立した若者が公園で知り合った少女に性的な興味を抱く倒錯した世界まで描いている。この男女のセックスに到達していない若者の、欲望が彷徨う未成熟さを表現する寺山修司脚本の独特な世界観が、作品全体のイメージを構成している。それに対比させて、ヌードモデルに関わる好色な大人たちのマニアックな写真撮影を描く。理解に苦しむのは、少女役に羽仁監督が実の娘を使っていること。悪戯をされる少女にまだ性的欲求を知らない実子の配役は、表現者としての配慮なのかもしれないが、親としては大胆であろう。ラストはタイトルの地獄編を象徴するエンディングで終わり、悲劇的な若者の青春残酷劇として完結する。打ち砕かれた性の欲求の彷徨と、それでも初恋の体験に生きる意味を求めた若者の虚しさ。

  1980年 4月10日  フィルムセンター

ドラマのストーリーとは直接関係ないが、文化祭での8ミリ映画の不出来を言い訳する発表場面が可笑しかった。自分も高校生の頃から8ミリ映画を制作していたが、どうしても編集で誤魔化せない駄目なところを承知で使わざるを得ないカットがあった経験がある。素人ならではのあるあるエピソード。この登場人物には、甚く親近感を抱いてしまった。

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Gustav