劇場公開日 1951年10月3日

「結婚を決めた後の原節子がテーブルに伏せて涙するシーンの意味合いは…」麦秋 KENZO一級建築士事務所さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5結婚を決めた後の原節子がテーブルに伏せて涙するシーンの意味合いは…

2023年7月12日
スマートフォンから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

「紀子三部作」の「晩春」に続いて
再鑑賞したが、共に
“女の幸せ=結婚”的認識に
支配された時代における、
本人及び家族の心象を描いた作品だった。

そんな保守的価値観の中で、
この作品の紀子は、「灯台もと暗し」あるいは
「遠くの親戚よりも近くの他人」的気付きで、
子供のいる幼なじみとの結婚を決断する。

紀子は「晩春」ではファザコン的女性像、
この作品では家族依存的女性像に感じたが、
いずれにしても、
現状から脱却出来ない人物像だ。
そんな中、この作品ではそのハードルを
越えたようにも思える幼なじみとの結婚を
決断した。しかし、
最後のテーブルに伏せての涙のシーンは
そこから完全に脱却出来てはいなかった
ことを示していたのだろうか。
そしてそれは、この作品のテーマとも
評される家族の系譜的なものにも、
各個人の心の痛みが伴うとの
意味合いなのだろうか。

ところで、小津映画はどの作品でも
涙を誘われる場面があるが、この作品では、
杉村春子が息子との結婚を望む心持ちを
原節子に打ち明けるシーンにジーンと来た。

それにしても、笠智衆は不思議な俳優だ。
「紀子三部作」の中だけでも、
この作品で母親役だった東山千栄子とは
「東京物語」で夫婦を演じ、
妹役の原節子とは「晩春」では親子だった。
実年齢の枠を超えて配役されても、
何の不自然さも感じさせない貴重さを
感じる役者だ。

KENZO一級建築士事務所