劇場公開日 1963年4月28日

「戦争はもっとつらいよ?!」拝啓天皇陛下様 TRINITY:The Righthanded DeVilさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5戦争はもっとつらいよ?!

2024年8月25日
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鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

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 同名小説のヒットを受けて映画化された作品。

 一日三食付きで風呂にも入れる軍隊生活を天国だと語る主人公のヤマショウこと山田正助。
 彼を「純粋」と評する媒体もあるが、どちらかというと無学で無知。

 服役経験があり、たびたび窃盗をはたらいては周囲を不快にさせるが、本人は至って無自覚。罪悪感など全くないという、貧困の原因が社会構造にあると考える能力はないが、行動原理は原始共産制的という、ちょっと不思議なキャラクター。

 本作品は反戦映画と捉えられることもあるが、作中に声高に戦争批判を訴える登場人物も、視覚的表現もない。

 確かにこの作品タイトルで『野火』みたいな映画には当時はできなかっただろうが、それでも、野戦征きへの不安や上官のパワハラで発狂する准尉や、戦友を間に合わせで火葬する戦地でのもめ事、無数に林立する棒杭だけの墓標(1963年の作品だから、サッドヒルよりも先)など、それなりに攻めていると自分は思う。

 激戦地で戦死した中隊長の墓前で主人公が号泣するシーンに、原作者や作品の方向性が垣間見えるが、一方で、主人公の頓死を予感させるラストシーンに重なる大書の字幕は、戦争の意義をあらためて見つめ直すには十分すぎる表現。戦中・戦後を背景にした社会派ドラマとして評価したい。

 主人公のヤマショウを演じるのは、松竹映画の看板シリーズ『男はつらいよ』を亡くなるまで支え続けた渥美清。同シリーズの寅さんや、TVドラマ『泣いてたまるか』にも通ずる、世渡りが下手で社会的に報われない人物像をここでも好演している。

 渥美以外の共演陣も、かなり豪華。
『七人の侍』よりもある意味すごいかも(多々良純と上田吉二郎はどちらも脇役だが双方に出演)。

 横暴で小ずるいが、どこか憎めない上官の二年兵・原を演じたのはふだん悪役や強面役の多い西村晃。のちにTVの二代目黄門様でお茶の間の人気者に。

 後輩の初年兵・柿内を演ずるは、松竹新喜劇の花形役者・藤山寛美(先代)。いつもの「あほ役」とは正反対の、ヤマショウに文字を教える元代用教員役を落ち着いた演技で見せてくれる。

 主人公に慕われる中隊長・堀江役は、銀幕の黄金期を脇で支え(出演作350以上!)、TVや舞台でも活躍した昭和の名バイプレーヤー、加藤嘉(よし)。ひげ面の加藤さんを観るのは初めてかも。

 放浪画家・山下清もこそっとゲスト出演。むろん、裸ではない。

 BS松竹東急で、本作品のヒットを受けて製作された続編『族・天皇陛下様』と併せ、初めて拝見。
 戦争に対する懐疑的な表現は続編の方が多いが、いずれにせよ、どちらも秀作。

TRINITY:The Righthanded Devil