「髪結新三」人情紙風船 kossyさんの映画レビュー(感想・評価)
髪結新三
新三は金のために賭場を開いていたため、この町一帯を牛耳っていたヤクザ弥太五郎源七に狙われていた。なんとも愛嬌のある新三。歌舞伎狂言「髪結新三」を元にした作品。この映画の封切り当日に山中監督に召集令状が届き、中国で帰らぬ人となった。
新三の憤りもさることながら、冒頭から始まる浪人の生活苦は、侍ではあるけど、一般庶民の生活苦と違いはない。なにしろ侍が自殺するといったら、普通は切腹であるはずなのに、刀さえも売り払ってしまったら首つりしか手段は残されてないのだ。さらに、権力に屈することない反骨精神を新三と又十郎で描いている。誘拐とは言え、金のためではない。白子屋という質屋の娘が家老の家に嫁ぐことを知って、白子屋と繋がりのある源七が謝りに来るのを待っていたのだ。結局は大家が金で解決させたが、この金のためではないことに庶民の心意気を感じてしまう。
一方、又十郎は彼の父親が仕えて出世させた毛利の家へ何度も訪れるが門前払い。士官のためとはいえ、かなりの屈辱を味わされた。しかも、ヤクザを使って追い返されたのだ。それでも武士らしく、手荒なことはしない。長屋に帰れば、妻が文句も言わず、紙風船作りの内職をこなしている・・・
白子屋の娘を返してしまったら、今度は自分の命が危ない。それでも決行した新三。又十郎にしても、その娘お駒は毛利が縁談の世話をしていることに気付いていたため復讐の意味もあったのだ。大家が金を取りたてたおかげで、長屋ではまた宴会。しかし、実家から帰ってきた又十郎の妻は夫を刺し、自分も死んで心中として扱われた・・・新三も夜道でヤクザに襲われる(多分死亡)。紙風船が雨の降った後の水たまりを流れる様子が妙に悲しくさせる。