「戦後という時代だった」人間の証明 よしたださんの映画レビュー(感想・評価)
戦後という時代だった
「母さん、あの麦わら帽子どこへいってしまったのでしょう・・・」
映画のTVCMで松田優作の声で語られる詩の冒頭。忘れられない広告の一つだ。同時にこれは、映画というものがメディアの広告によって、観客を集めるものなのだと、子供心に印象付けられた出来事だった。
当時の角川映画は、毎年のように大がかりな宣伝と話題の俳優の起用によって、映画の公開が一つの社会的な出来事であるかのような感覚をもたらしていた。
そして、その時代、戦争が終わって30年の月日が経っていた。物質的には戦後すぐの貧しさ、傷跡を克服したかに見えていた日本。多くの日本人が、それはすでに遠い過去のこととして忘れかけていた。しかし、30年という時間は、人間の人生の半分にも満たない。この時代、まだそれぞれの心の中に、戦争やその後の混乱期の傷を抱えたまま生きている人々がたくさんいた。我々の隣にいる人がもしかしたら、そういう人かもしれない。映画は、そのことを我々に語りかけてくる。
この作品に限らず、「犬神家・・・」「野生の証明」など当時の角川映画にはそうした戦後を引きずる人々の悲哀が一貫して描かれている。不幸な時代の記憶を断ち切って、豊かで明るい時代の到来を迎えた人々が抱く不安と希望の表象として、角川映画という社会現象を記憶に留めておきたい。
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