人間の條件 完結篇のレビュー・感想・評価
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R.I.P
避難民やロシア人も出てきて戦争がより多層化する。冒頭で梶の変容を示し、岸田今日子に対する心ない言葉で、ただ生き残る梶にはあまりにも厳しい罪を着せる。中村珠緒を救えたのか。要求が極限になる。
際立つ存在感を放つ高峰秀子の生き方はこの作品の究極にも思える。彼女が下した咄嗟の判断は、結局は梶に下された判決のようでもある。結局、血で染めた手は落とさなければならないのか。
この期に及んで将校捕虜だとか、適当な通訳だとか、スターリンの肖像画だとか、金子信雄の死に様だとか、話はとどまらない。梶は最後の最後まで妻の笑顔に語りかけて歩き続ける。
随分歩きましたね。ここが人生の始まりです。
ハッキリ言って日本映画の最高到達点だと思います
日本映画でこれほど壮絶なものを観たことはありません
圧倒的な感動というのも陳腐に過ぎるような震えるものがあります
これこそ真の反戦映画です
空想的な平和主義や、社会主義やソ連や共産主義中国を盲目的に礼賛するような考え方には冷水を浴びせるような、厳しい現実を突きつけます
ソ連の社会主義体制に唯我独尊を感じるとまで主人公に批判させています
ですから左翼の方々には受けが悪く、都合が悪いのかこれ程の名作でありながら正当な高い評価を与えられていないと思います
ハッキリ言って日本映画の最高到達点だと思います
本作は全6部で構成されDVDも6枚あります
映画では2部づつ3回に分けて上映されたとのことです
全部で9時間半にも及ぶ空前の超大作です
第1~2部は満州の鉱山における日本人が中国人を使役する実態を
第3~4部は軍隊生活についての実際と1945年8月9日のソ連の満州侵攻を
第5~6部は完結編と称され、敗残兵と日本人避難民に何が起こったのかと、ソ連の捕虜収容所での実態を主に描きます
描かれてある実態がどこまで真実であるのかはわかりません、もちろん映画ですから誇張もあるでしょう、しかし斜めに構えた醒めた視線で観ても左翼思想的な思惑によって恣意的に歪められていると思うことは皆無です
そのような安っぽい薄っぺらなものとは次元を画しています
主人公の梶と共に、私達はこの9時間半をかけて、戦争の現実の前に、第1部~4部での彼のヒューマニズムや社会主義に対する理想が如何に甘くナイーブなものであったかを、鼻先にまで現実を突き付け、観たくない現実を目をこじ開けさせてでも見せて、完膚無きまで叩き潰して、木っ端微塵に粉砕してしまうのです
それ故、第6部まで全編を観なければ本作の真のテーマはおろか、意義や意味は絶対に伝わりませんし、分かることもありません
第1部~2部だけを観ても、それは観たことには成っていません
ほんの入口にしかすぎません
それだけで観た気になって本作を語られても困ります
全6部までを観て初めてわかることなのです
全6部、9時間半を観るのは大変です
しかしこれを観通した時に得られる感動は巨大なものがあります
仲代達也の鬼気迫る演技は壮絶を極めています
圧倒的なスケール感とスペクタクルは日本映画の域を遥かに超えているものです
新珠三千代が演じる主人公の妻美千子の運命は、主人公の妄想として、ソ連兵達がレイプしようと抵抗する彼女を引き摺って連れ去るシーンと、高峰秀子が演じる年格好が同じ美しい中年女性の経験が、美千子の運命を暗示しています
これ程の映画は世界的にもそう無いと思います
リアリズムは映画だけでなく、平和と反戦について考えることにまでそれを要求するのです
自己と愛する人の生命がかかっているのですから
どこまでリアリズムであっても足りません
徹底的にリアリズムであるべきです
戦争の悲惨さを引き起こさないためには、一切の希望的な考えや期待や理想などは甘いことなのです
愛する人を危険にさらすことは、排除するべきなのです
その上でのヒューマニズムです
それが人間の條件なのです
でなければソ連侵攻の前に日本軍が敗れた時、地獄の様相を示す本作で描かれる満州の状況が、そのまま21世紀の日本において起こり得るのです
お花畑な空理空論で反戦や平和を語るものは、本作で主人公の梶が制裁を加える人物と同じです
そのような人々に騙され無いようにするためにも、本作全6部を観ることに9時間半の時間を費やすることは意義も意味もあることだと思います
選択。
2015年8月、戦後70年。丸の内、スクリーンで1・2部鑑賞したのち、自宅で最後まで。
兵役を忌避していた、ちょい有能だが肝の小さい男・梶(仲代達矢)が、時代に絡め取られていく様。忍耐・苦痛を強いられる中、己れであるために、人間であるために、もがき闘う姿を描く。
梶は、決して手が届かない空想の人物 としてではなく、我々一人一人の中にいる。
目の前の問題に、どう判断し行動するかを決するのは、我々の中の梶なのである。
梶も含め、決して綺麗事だけではない、戦時下という極限において表れる様々な人間の本質。私はどの人間を選ぶのだろうか。
新珠三千代演じる、妻・美智子。美しかった。パートナーの存在が人に与えてくれるものは大きい。そう改めて感じさせてくれるヒロイン像。
初期の田中邦衛に会える貴重な作品でもあった。
"現実を直視しろ"
“生き残る為”に敵兵とは言え、人を虫けらの様に殺してしまった《梶上等兵》の苦悩は続く。
戦争事態はもう既に終わってはいるが、“最前線での戦闘”はまだまだ終わってはいない。
第五部では、指揮官となった梶のもとで出会いと別れが繰り返しあり、時には人が虫けらの様に死んで行く。
梶がリーダーとなりゲリラ戦となるが、彼が指揮する事によって、他人に命令する事態になる。その事で映画的な面白味が多少薄くなって来る。
明らかに“上手く立ち回った者が得をする事態”に於いて、彼の生真面目な行動は果たして正解か否か?
その答えは第六部まで待たなければならない。
やがて強盗等の行為が発覚し、統制が困難な状況に及び、「1人々々が自分で考えて行動をするのが吉!」と考えるのだが、この第六部になると高峰秀子が登場して、俄然面白くなって来る。
男と女は常に一対となって行動を共にしなければ生きては行けない…。
気丈に振る舞いながらも女としての弱さを垣間見せる高峰秀子は絶品です。
そして舞台は遂に“あの地へ”
梶の直属の部下となる川津祐介との師弟関係を縦軸にして、“人間らしさ”を追求して来た作品は、金子信雄の非道な悪役っぷりへの怒りから意外な局面を迎え、クライマックスへと至る。
凡そ10時間に迫ろうかとゆう超大作の本編を観終えた今、最終的な結末は本来作品が当初打ち出していたテーマからは大きく逸脱してしまったかの様な印象を持つ。
圧巻的な仲代達矢の演技力に、全六作全てを担当した撮影監督宮島義勇の力強い映像は圧倒的な締め括りです。
然るに、長時間に渡り作品と向き合って来た人には非情な結末が牙を剥く。
これがもしもハリウッド作品だったなら…。
しかし、この事実こそが現実なのだろう。
「現実を直視しろ!」
そんな小林正樹監督の“檄”が聞こえて来そうな、入魂の作品でした。
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