劇場公開日 1959年11月20日

「単なる社会主義礼賛の反戦映画ではないことを終盤で証明していた」人間の條件 第3・4部 あき240さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0単なる社会主義礼賛の反戦映画ではないことを終盤で証明していた

2019年10月26日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

次の台詞を聞いて大爆笑した
そして背筋が凍った

どっかに人間を解放する約束の地がある
国境の向こうにもっといい世界があるというんだ
それこそ人間を人間として扱ってくれる世界さ

なんという恐ろしいブラックジョークだろう!
脳天気にも程がある
しかし本人達は至って真面目に全人生をかけてこの台詞を言っているのだ

国境の向こうとはスターリン体制下のソ連の事なのだ
それがどれ程恐ろしい意味を持つことか21世紀の私達は知っている

しかし主人公達は本作で描かれる日本軍の軍隊生活などはスターリン体制下のソ連と比較すればむしろ天国と言うべき、人間性など微塵もない世界が国境の向こう側に展開されていたことを何も知らないのだ

当時の人々が如何に社会主義思想に夢を見ていたのか、空想的に理想化していたのかが良く分かるシーンだ
いや、未だにこの当時のままの考えで固定されている人々もまだまだ多くいるくらいだから、それは宗教的な迄に信じ込んでしまったものなのだろう
哀れだ
そのマインドセットで軍隊生活の日常を見た光景が本作では描かれる

第四部で国と国が武力を持って知力と体力の限りを尽くして、ぶつかり合う戦争においては、思想も人間性もなにもないのだ

国家というものは共産主義であろうと社会主義であろうと関係ない
国家戦略、軍事戦略の利害のみで動くのだ
共産主義国家であっても軍国主義であり帝国主義なのだ
むしろ共産主党独裁はファシズムと変わりはない
ソ連はそうであり、現代の中国も北朝鮮もまたそうであることを私達は知り尽くしているのだ

であるならば一人の人間として生き残るために必要なことは何か?
それは武器と戦う為のスキルを獲得することだ
各人にそれを持たせ訓練し、組織として機能できる規律を持たせる
それを修羅場に於いても活かせるように骨身まで叩き込まれた方が、実は本人に取っても良い、正しいことがハッキリしてしまうのだ

それが現実だ
本作は驚くべきことにそれを描いている

本作は単なる社会主義礼賛の反戦映画ではないことを終盤で証明していたのだ

終盤の戦闘シーンはそのスペクタクルさ、リアリティーに於いて、後年のベトナム戦争の現実を扱う米国映画の数々にも決して負けないものがある
日本映画でもこれ程のものが撮れたのだ

単なる反戦映画でしょ、と忌避していたらもったいないことだ

あき240