肉弾(1968)

劇場公開日:1968年10月12日

解説

「日本のいちばん長い日」の岡本喜八が脚本・監督を担当したもう一つの“日本のいちばん長い日”。撮影は「北穂高絶唱」の村井博が担当した。

1968年製作/116分/日本
配給:ATG
劇場公開日:1968年10月12日

あらすじ

昭和二十年の盛夏。魚雷を脇に抱えたドラム岳が、太平洋に漂流していた。この乗組員、工兵特別甲種幹部候補生のあいつは、まだ終戦を知らなかった。あいつが、ここまで来るには可笑しくも悲しい青春があった。演習場のあいつ。候補生たちは、みな飢えていた。あいつは、めしと死以外を考える余裕はなかった。乾パンを盗んで裸にむかれたこともあった。それから、広島に原爆が落ち、ソ連が参戦した。そして予備士は解散され、あいつら候補生は特攻隊員にされた。一日だけの外出を許されたあいつは、無性に活字が恋しくなって古本屋へ行った。だが、活字で埋った本は、電話帳だけだった。そこには、B29に両腕をもがれた爺さんと観音さまのような婆さんがわびしく暮していた。あいつは、やりきれなくて焼跡の中の女郎屋に飛込んだ。けばけばしい女たちの中で、因数分解の勉強をしているおさげ髪の少女が、あいつに清々しく映った。だが、あいつの前に現われたのは、前掛けのおばさんだった。再び雨の中へ飛出したあいつは、参考書を待った少女に出会った。なぜか少女はついて来た。やがて二人は防空壕の中で結ばれた。翌日のあいつは、対戦車地雷を抱えて砂丘にいた。少女、古本屋の老夫婦、前掛けのおばさん、そして砂丘で知りあった小さな兄弟とモンペ姿の小母さん。あいつが死を賭けて守る祖国ができた。その夜の空襲で少女が死んだ。それから、作戦が変更されあいつは魚雷と共に太平洋に出た。あいつは、ドラム缶の中で少女を殺した敵をじっと待ったが、敵機の機銃掃射を受けて、彼のメガネは飛び散ってしまった。日本は敗けた。だがあいつはある朝、大型空母を発見した。あいつは執念をこめて九三式魚雷を発射したが、魚雷は泡をたてて沈んでしまった。それから間もなくあいつは、空母と錯覚したし尿処理船に助けられ、終戦を聞かされた。し尿処理船に曳航されながら港に向かったあいつだが、腐ったロープが切れてしまい取り残されてしまった。しかしあいつはそれに気づかずに怒号していた。それから二十年余、海水浴客で賑わう同じ海に、ドラム缶が浮いていた。その中で、白骨化したあいつは、いまだに怒号していた。

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映画レビュー

4.0 不条理

2025年9月4日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

戦争は只々多くの犠牲を払うだけで何も生み出さない。あいつはその馬鹿馬鹿しさに気付いていたが、彼一人の力では抗う事は出来ず、馬鹿馬鹿しい波にのまれていくしかない。自らも特攻を命じられて、せめてそれに意味を見い出そうとするが…

全体を通して乾いた笑いがあり、権威に対して徹底的に皮肉っています。あいつが副隊長と話しながら、壊れたレコードを思い浮かべたり、さりげない嫌味をちょこちょこ入れるのも面白かったです。シュールな結末も良かった。少ない登場人物、予算でも戦争の不条理が伝わりました。こんな形で描くやり方もあるんだなと思いました。

とても知的で良い作品だと思います。
大谷直子さんが美しく、北林谷栄さんは品がありました。
ただ、大谷さんとの比較の為なんでしょうが、女郎屋の女たちをみんな化け物だ、というセリフは、戦争未亡人かもしれない彼女たちの背景を考えると、笑えませんでした。戦時中の女性が老けていたのか、本当におばさんだったのかは判別できませんでしたが、女給やお針子や飲み屋の女将や製造業、こんな職業に就いてさえいれば、化け物とは言われなかったでしょう。
看護婦たちが男どもに襲われて嬌声をあげるシーンも意図が分からなくてあまり好きではありません。

昔の映画なので、軍人の言葉が早口だし用語も一回聞いただけでは意味が分からなかったりするところもありました。最近の戦争映画の軍人の話し方がなってないという意見もありますが、理解出来なくては伝わらないから、今の時代に合った分かり易い戦争映画も必要なんだなと思います。

寺田農さんは、ヤな奴を演じたのしか観たことが無いのに、なぜか好きな俳優です。
本作を観て分かりました。知性を感じる落ち着いた話し方を気に入っていたんだろうと思います。

<追記>
余韻が凄いです。「立派に死ね」と言われ、軍隊では理不尽過ぎる扱いを受け、それでも「大した事はない、大した事はない」と自分に言い聞かせるように何度も言うあいつ。
後半では言わなくなる。守るべきものが出来、でもそれを失って、諦念から怒りに変わっていったんだろうと思います。

看護婦たちが襲われるシーンは、漁師と表現されている男たちは、もしかしたら進駐軍を意味しているのかもしれません。あるいは、大陸で敗戦後、日本人が助かる為に差し出された女性たちを表現したのかもしれません。いずれにしろ、ひどい目に遭うのは弱いものたちです。敢えて悲惨な感じにしていないのかもしれない。そう思ったので、評価を★4に変えました。

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ゆり。

4.5 タイトルなし

2025年6月7日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:VOD

ラストの骨のシーンがすごい。どこまでも明るい。こんな戦争風刺映画は初めてか。
勉強しないとワラジムシになるぞと主人公に脅されて、なりたくないといいつつ手榴弾で男の子が算数をやるシーンは素晴らしい。戦争映画としてこれほど美しいシーンはあるだろうか。また大谷直子が素晴らしい。ジェンダー的には古い。岡本監督自身、出征の祝いの夜に好きな女性に返ってくるのをお待ちしていますと手紙を渡され、生きる支えになったとしている。映画にそれが投影されている。

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Emiri

未評価 日本よい国、清い国

2024年8月25日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

【肉弾】  岡本喜八 生誕百周年記念プロジェクト - その8

 昨日は、79年前の8月14日における日本軍の断末魔を見つめた大作「日本のいちばん長い日」が上映され、敗戦の日の今日は一転してたった一人の兵の可笑しくも哀しい8月15日を岡本監督が描いた小品「肉弾」です。

 もう歳のせいでどこの誰だったかは記憶もおぼろになりましたが、10年以上前、「美しい国へ」なんて本を出す政治家が現われました。僕は日本が大好きですが、政治家がそんな事を言い出すと咄嗟に身構えてしまいます。それは、本作で子供が朗読する場面が度々登場する戦前の修身の

 「日本よい国、清い国」

を想起してしまうからです。この一文は更にこう続きます。

 「世界に一つの神の国。
  日本よい国、強い国。世界に輝く偉い国」

「美しい国」なんて今更言い出した政治家の頭の中には「神の国」「強い国」があったと思えてなりません。政治家がそんな言葉を口にする事で、ある年代以上の人々にあの息苦しい時代を想起させるという想像力が全く欠如していたのです。敗戦の日には黙祷を捧げつつ、あの愚かさを笑える余裕も持ち続けたいと思うのでした。岡本監督の様に。

 そして、今日の上映後トークは、監督の奥さんでありプロデューサーでもあった岡本みね子さんと、映画評論家の白井佳夫さんでした。お二人とも直接のお話を滅多に聴けない貴重な機会です。特に、白井さんはこれまで文章を通じては度々接して来ましたが、直接拝見するのは初めて。お二人の掛け合いが面白かったなぁ。

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La Strada

3.0 今ではシュール

2024年6月7日
PCから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

悲しい

楽しい

 昭和20年、魚雷にくくりつつけられたドラム缶のなかで海を漂流する21歳の兵士。落ちこぼれ士官候補生だった彼は、家畜のように扱われていたが特攻の命令で神とされる。一日だけの外出で少女と出会い好意を抱くも。
 当時の笑いは現代ではイマイチだけど、シュールな笑いがあります。終戦から20年以上たって、ずいぶん世の中お茶らけたんだな、という皮肉が込められた反戦映画。
 戦争により、昭和20年の男の平均寿命は46.9歳とのこと。
 爆発音や電子音が、ウルトラマンで聞きなれた音で懐かしい。
 大谷直子が当時高校生。当時は、あんなことまでやらせてよかったんだ。

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sironabe