「ファシズムの教材として良い出来」226 せきれいさんの映画レビュー(感想・評価)
ファシズムの教材として良い出来
2.26事件という、歴史的な事件を真面目に、真面目に描いた作品。
本当に真面目に作っているのが感じられる作品で、国全体がクソ真面目に傾き過ぎていた時代の堅苦しさ、重苦しさが全体に流れているのが気に入った部分。
1989年の古い映画なので、道具やセットの拙さは覚悟していたが、そこはバブル崩壊前の余裕か、とても拘りが感じられる。素人目線だが、少なくとも、戦後の米軍の兵器や車の代用で誤魔化すような安い映画ではない。九二式重装甲車が登場する作品を初めて見た。
キャストも(今となってはだが)豪華な面々で、死に際が多少オーバーなのが気になるものの、若い頃のベテラン俳優の演技が楽しめるのは良いところ。冗談の一つも言えない当時の軍人の再現度が見どころだ。音楽も作品を邪魔しない程度に抒情的である。
一方、実話ベースでエンタメ性は低く、映画らしいカタルシスや感動は期待できないため、星3.5とした。
元々見ようと思ったきっかけは、ウクライナ戦争の、ロシア側の大義名分について知ったからだった。プーチン氏は「ウクライナのナチス勢力を排除するため」という名分を掲げているらしい。
はて「ナチスって、ファシズムって何だっけ」と思い、日本のファシズムについておさらいすることにし、2.26について正面から扱った作品がないかと思い、古いながら本作品に行き当たった。
「話せばわかる」「問答無用!」という、5.15事件のやり取りが日本のファシズムを象徴するのだが、子供にはどうにも説明しきれない感じになってしまう。なにせ国民も青年将校らに同情的で、主張は子供っぽくピュアな勧善懲悪論。権力欲と金にまみれた独裁者のクーデターとは、あまりに違うのである。
そこで、近現代史に興味を持つ子供にはこの映画を見せて、時代の雰囲気ごと感じてもらうのはどうだろうか。世界のファシズムとはちょっと違うが、日本の独特なファシズムについて考える良い切っ掛けになると思う。