「単なる犬のお涙頂戴映画なんかじゃあありません」南極物語(1983) あき240さんの映画レビュー(感想・評価)
単なる犬のお涙頂戴映画なんかじゃあありません
2022年、今年は正月から大寒波で近年になくめったやたら寒かったです
3月に入って急に春めいたかと思えばまた気温が急低下して都心でも雪が降りました
ついこの間は、東北の大地震とのダブルパンチで大停電の一歩手前までいって大騒動です
でも究極の寒さとなるとやはり南極です
南極の映画と言えば?
遊星からの物体X!
え?日本映画?なら復活の日!
そうなるのは特撮ファンだけですwww
普通の人は本作になるのが当たり前です
なにしろ日本映画史上でも特筆ものの超特大ヒット作品なんですから!
1983年7月公開
国内1200万人動員、61億円の配給収入
1980年の黒澤明監督の「影武者」の記録を塗り替えて日本映画歴代映画興行成績1位に躍り出た作品なのです
1997年の「もののけ姫」まで、実写映画となると2003年公開の「踊る大捜査線2」に抜かれるまで、この記録は破られなかった大記録です
この年は猛暑だったんじゃないの?
真夏に南極の映像みて単に涼みたかっただけじゃねーの?なんていう人もいるかも知れません
それなら数カ国でも公開されて、近年はディズニーがリメイクしたという理由を説明できますか?
こんな日本映画が他にありますか?
「七人の侍」ですら及ばないのです
でもなぜか映画ファンからは本作の評価は低いようです
老舗の映画会社でもないフジテレビの製作
それを電波を私物化して自局の番組で大々的に宣伝しまくったから大ヒットしただけ
動物を使った安易なお涙頂戴式の映画だ
などといろいろ批判されてます
かく言う自分も今の今まで観てなかったのですから、そんなに風に観てもいないのに頭からバカにしていたんだと思います
反省します
何にもわかっていませんでした
すみませんでした
大ヒットしたのは当然です
世界各国で公開されるのも当然です
ハリウッドリメイクされるのももちろん当然です
日本が世界に誇るべき素晴らしい映画だと思います
心からそう思います
格調高い映画だけが素晴らしい映画ではないのです
映画は大衆娯楽です
大衆が観て良いと思う作品が良い作品です
親も子供も観て、もう一度観たいと思うそんな映画だからこのような超特大ヒットになるのです
一部のひと握りの人間だけが理解できる小難しい映画だけが素晴らしい訳ではないのです
監督は蔵原惟繕
石原裕次郎の映画を沢山撮った人
つまり大衆娯楽の映画とは何かの神髄を理解されている監督だと言うことです
カメラは椎塚彰とあります
不勉強でこの方のことを全く知りません
しかし広い画角に非常に明るい画面で映し出される映像は、ロケ地のカナダの北極地帯や南極の光景はもちろん、北海道や京都のシーンでも目を見張るものです
名カメラマンと名高い宮川一夫や木村大作にも勝るような映像が全編に渡って写されているのです
特に真夏の北海道の無人駅や利尻富士のシーンの映像の美しさは、比較ができますからその腕前のすごさが良くわかります
観ていて思うのが、高倉健や渡瀬恒彦が台詞を喋っているのがふと日本語だと気づいて驚く感覚があるのです
画面の中の日本人達が日本語を話す
日本映画なのだから当たり前です
なのに驚くのです
字幕で日本語が流れないと思い、そこで初めてこれは日本語の映画だったと驚くのです
英語を話していて当たり前の映像だからでしょう
貧乏臭くない洋画水準の映像の美しさなのです
蔵原惟繕監督は「栄光への5000キロ」を1969年に撮った人
その映画も洋画的な感覚に溢れていました
つまり日本映画らしくない、洋画水準の映画に一番近くまで到達した映画だったからこそ、あれほどのスーパーヒットを記録したのだと思います
無駄のない脚本、編集
長いと批判されてますが、退屈な映画ならばこんな大ヒットなんかどんなに宣伝しても望めません
海氷の巨大な亀裂のたてる音に怯える子犬、クジラの巨大な死骸、アザラシの肉を投げ与えるシーン
それらは全て伏線なのです
人間のドラマは全体の半分もあるかどうか
ナレーションとテロップを最小限いれても台詞の無い犬達だけのシーンが長く続くのに厭きないし、退屈もしないのです
むしろ南極に取り残された樺太犬達の演技に目が釘付けになるのです
すごいことです
音楽はあのヴァンゲリス
本作の1年前の1981年の「炎のランナー」のテーマがアカデミー賞の作曲賞を受賞して、音楽チャートの1位まで駆け上がるほど
しかもそこに「ブレードランナー」が公開
正に旬の世界的な音楽家だったのです
当然世界中からいろいろなオファーが殺到していたはず
ギャラももちろん高騰していたはず
それを口説き落としたのです
ご存知の通りこのヴァンゲリスという人は金や名声には関心の無い男なのです
つまり本作の企画内容が彼の創作意欲をかき立てた力があったと言うことです
改めてこの「南極物語」のテーマを聴くと、ヴァンゲリスが単に南極の雄大な光景をイメージしているだけでなく、東洋的な曲調があると感じます
南極
それは国境の無い大陸
西欧だけでなく、アジアの日本も参加して世界各国が平等の立場で平和的に調査を行うところ
そこで展開される動物と人間の物語
それはヒューマニティーとは何かを問うてもいるのです
単なる犬のお涙頂戴映画なんかじゃあありません
だからヴァンゲリスは本作のオファーを請けたのです
高倉健と渡瀬恒彦の二大スターが共演
そこに夏目雅子もほんの少しですが登場します
その美しさ!超アップの美貌は圧巻です
インターミッションとしての機能を見事に果たしつつ、クライマックスへの接続を強力に補強しています
かと言ってアカデミー国際映画賞を取れるような作品とまではいきません
それでもクォリティーは大変に高いものがあります
先入観にまどわされて今まで観もせずにいたのは大変にもったいない事だったと思いました
高倉健、渡瀬恒彦、夏目雅子の代表的な出演作と大書きされるべき映画だと思います
この3人のスターのファンならば観てないとならないと思います
蛇足
15頭の樺太犬記念像が、東京タワーの真下にあったことをご存じの人も多いでしょう
東京タワーが完成した翌年、1959年に動物愛護協会が立てたそうです
死んだ犬達の慰霊碑でもあったそうです
ずっと今もそこにあると思っていたら、2013年に立川の「国立極地研究所南極・北極科学館」の西側に移転されているそうです
ビックリです
少し前に通りかかった時にあれ?ここにあったはずなのにと思っていたのですが、まさか移転していたとは全く知りませんでした