夏子の冒険のレビュー・感想・評価
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修道院行きから熊退治に代わる主人公のラブコメディ
あらすじ
この映画は前年、1952年、に続く日本に於ける2作目の総天然色映画。そのためか、今日とは少し強めの、特に女性主人公のメーキャップが特徴。
この映画の観賞は、先頃、YouTubeにアップされた動画で鑑賞した。何時、如何にして画面が一部喪失したのか不明であるが、4〜5カ所で画像が失われている。然し、その部分は台本のように、上下に区切り、上部にはその場面の情景が描写され、下部には台詞が書かれているので、内容を失わずに物語が理解できることは、不幸中の幸い。
映画は冒頭、主人公の松浦夏子が食事中、突然、両親、祖母、伯母の前で、「私、修道院に行く」と宣言したことで、物語が始まる。 夏子が修道院に入ることを決意したのは、夏子の周りの男性には愛のために自身の命を懸けたり、死の危険を冒してまで物事を成就する、「目の輝いた情熱ある人がいないため」だった。
上野駅から青函連絡船に乗り、函館へ行く船上で、夏子は、上野駅でちらっと見た「目の輝いた男性」に再会し言葉を交わした。彼の名は井田毅。
翌日、夏子は毅に会い、北海道へ来た目的を尋ねた。彼は、2年前にこの地に来て、アイヌ部落で知り合い結婚まで約束した秋子と言う女性と狩猟を楽しんだ。 然し、その後父親からの手紙で、秋子は四本指の人喰い熊に手足を噛まれて殺されたことを知る。そこで、彼は秋子のために熊の敵討ちをすることを誓ったのだと言う。
そのために毅は再び北海道を訪れ、秋子を殺した四本指の人喰い熊の仇討に来たのだった。毅は、話を終えて夏子が帰ると思ったら、彼女は修道院へ行くのを止めて、毅と一緒に熊退治に行くと言い出した。 決意が固い夏子の情熱に負けて、毅は一緒に出掛けることにした。 然し、旅館の従業員には、急遽予定を変更してすぐ出発することを告げる。 一方、旅館を知っている夏子は毅の予定を確認するため、電話をすると、「既に出発した」との返事。そこで、夏子は、大急ぎで夜出発の札幌行汽車に乗り込み、一つ空いていた座席に座ろうとすると、その隣には毅が座っていた。もう毅は逃げられなかった。
札幌に着くと、毅の大学の後輩で札幌タイムス勤務の野口が出迎えた。毅は、待って居た野口のアパートに予期していなかった夏子がいたので驚く。そこで、夏子は「死んでもよいから一緒に行かせて」と毅に懇願し、遂に毅も根負けして夏子を同道させることに同意した。
山歩きに慣れていない夏子は、何度も弱音を吐いたり、水を欲したり、助けてもらい岩山に登ったり、遂には歩けなくなり、毅に担がれて、何とか秋子の家へたどり着いた。
毅達が秋子の家にいると、父親の十蔵が急いで戻って来て四本指の人喰い熊がいることを知らせた。「毅さんが探している熊だ」と言うと、皆、喜びに沸き征伐に出かけた。
村民たちは村長宅に集まった。毅も夏子と共に加わり、熊が出没しそうなコースで見張った。
その間、夏子の母、祖母、伯母も札幌タイムスの編集長、成瀬に伴われて村長宅へ向かい、夏子に再会した。
その夜、熊は村長宅の周辺に現れたので、全員熊を追って生け捕るために集中した。毅も、夏子と共に熊の出現を待ち、見つけると、銃で撃ちながら熊を追い続けた。 そして、二人は遂に毅の撃った球がクマに的中して、射止めることに成功した。
村中の人が射止めた熊を吊るして、火を焚きその周りを賑やかに踊り周り、二人を肩に乗せて、毅と夏子の成功を祝った。
毅が函館へ来た目的が達成され、一段落すると、彼は、改めて夏子との将来設計を語り始めた。すると、夏子は、熊退治で見せた毅の輝いた目つきが消え失せ、普通の庶民的なことしか言わない彼に不満を漏らし、毅を置いて旅館へ帰ってしまった。旅館へ戻るや否や、夏子は再び「夏子修道院へ行く」と言い出し、母、祖母、伯母を驚かせた。
然し、その時、毅と別れの挨拶をするために訪れた不二子が、夏子の話を聞いて、洗濯も風呂の火も焚くことが出来ず、道中は歩けなくなり毅に担いでもらったりした、何もできない夏子をきつく非難。毅がマスコミの要望に答えて、街で顔を売り出したのは、その得たお金で亡くなった秋子の墓を作るためだと、教えた。
事実、夏子はわがままで、自分のことは何でも叶うと考えていたため、他人の思いやりがなかった。それに気が付いた夏子は家を出て行くと、毅が夏子の方へやって来て、泣きそうになった夏子を受け入れた。
やがて、東京へ帰る日が来た。函館の桟橋へ毅を見送りに来た不二子の頬には涙が流れていた。毅をずっと慕っていたが、夏子のためにそれが叶わず、これが最後の別れとなるのだった。一方、毅の人柄を理解した夏子は、もう「修道院へ行く」とは言わないだろう。
感想
* 映画はロマンチックコメディーである。 そう言えることは、自然の会話の中で、予期しないコミカルな言い回しで、独創的な表現をしている。
例えば、冒頭、夏子が「人生が嫌になった」と答えると、父親は、「それはまるでカエルのへそを探すのと同じではないか」と、真面目に言う。
また、夏子の祖母は、家に熊が入ってきた時、退治したと勘違いし、新聞社のインタビューで、「顔に私が投げたとろろ昆布が掛かっているから、すぐ分かる」と、得意げに話 す仕草が可笑しい。
* 夏子に好意を寄せる青年が、車で夏子を家へ送るはずを、勝手に郊外へドライブしてしまう。そこで、夏子はきつく怒る代わりに、タバコ2本に火をつけて、両頬に持って行
き、「火傷する」と警告。 止む無く青年は引き返してしまう。 煙草の火傷で気が変わる気弱な男性こそ、夏子が敬遠する男性の一人の筈。
* 暗くなった山道で、宿が見つからないため、 無人の山小屋を一夜の宿に使う。お嬢さん育ちの夏子は、親に叱られたことがないため、毅にお尻を強くぶたれて驚くが、 文句を言わず、むしろそれに感謝して、「もっとひっぱたいて」と、懇願する。この山小屋での会話が、夏子の女らしさと、毅の遠慮がちな優しさを表現したロマンチックなシー ンである。
* 登場人物の中で、不二子の存在は貴重だと思った。お嬢様で、世間のことを何も知らない夏子に、不二子がはっきりと物事の道理を話した結果、夏子は自分のわがままを 省した。 この不二子が登場しなければ、夏子は、毅を正しく理解していないので、再び】「修道院へ行く」と、言い出すに違いない。
* これまで、若原雅夫が演ずる役は、女性をか弱いもので、幸せに導くようなメロドラマ風な映画が多かったように見えたが、この映画では、男性としての主張を崩さず、女性
をいたわることも忘れない。 これまで余り見られなかった力強い男性を演じ、とても好感が持てた。
* 相手役で主演の角梨枝子も、アッパークラスの娘役として、上品に、しかし自己主張は崩さぬ、芯の強い女性を、上手く演じていると思った。
* 映画の色彩がとても素晴らしい。主役を務める俳優の衣装が、殆ど中間色。その中で、毅と野口(新聞記者)の衣装のカーキ色は、何処にいても目立ち、周辺ともマッチし 良い色だと思う。 更に、女性陣の和服、洋服の衣装は、殆どが中間色で、室内のカラーともマッチした、上品な色合いで素晴らしい。
* 途中で切れた映像や会話が抜けていることはとても残念。それ故、5点の評価を少し下げて4.5点とした。
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