「初期作品を彷彿とさせるホラーチックな造形」映画ドラえもん のび太の太陽王伝説 因果さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5初期作品を彷彿とさせるホラーチックな造形

2024年11月2日
PCから投稿

酷評が目立つゼロ年代前後のドラえもん映画だが、本作に関していえばそこまで悪くなかったんじゃないかと思う。

のび太の部屋と異世界がひょんなことから接続されるお決まりの流れを経て、彼らが辿り着いたのはいかにも古代文明といった雰囲気のマヤナ国。そこの王子ティオがのび太と瓜二つ!という仕掛けを軸に物語が展開していく。

かたや一国の王子、かたや凡庸な小学生。出自も性格もまったく異なるティオとのび太だからこそ、互いの生活ぶりが気になって仕方ない。というわけで二人は服を取り替えてそれぞれ逆の生活を体験する。ティオは持ち前の勝ち気な性格で母親や近所の人々をびっくりさせ、ジャイアンには喧嘩で勝ってしまう。しかししずかだけはのび太の不可解な変貌ぶりが許せず、面と向かって激昂する。

一方のび太は王子という称号が放つ優雅な雰囲気に惹かれるが、実際に待ち受けていたのはイシュマル先生による厳しい棒術の訓練。ヘトヘトになったところに現れたのは、ティオの側近役を務める少女クク。どうやら彼女はティオに好意を寄せているようだ。ティオのふりをしているのび太はククと仲良く接する。ククはいつもは冷淡なティオがやっと心を開いてくれたと感じ、彼にネックレスをプレゼントする。

翌日、のび太とティオは逆転生活に疲弊し、元の生活に戻る。ティオは首にかけられたネックレスを不審に思い、引きちぎって床に捨てる。この辺マジで見てらんなかったっすね…

序盤は勇猛果敢で尊大なティオだったが、その性格が太陽王の名を戴く父へのコンプレックスと、国を脅かす魔女レディナを倒さなければならないという過剰な自負心によって形成されていることが明らかとなる。

例のごとくのび太の部屋の秘密を察知したジャイアン、スネ夫、しずかはマヤナ国を訪れしばしの異国情緒に耽るが、これまた例のごとく魔女レディナによるククの連れ去り事件が発生。のび太たちとの交流を経て優しくあることの強さを知ったティオはククを救い出すべくのび太一行と共にレディナ征伐へ向かう。

レディナ征伐までの一連のシークエンスは非常におどろおどろしい。湧き出す白蛇や動き出す石像といったホラーチックなモチーフは『海底鬼岩城』『魔界大冒険』といった初期作品を彷彿とさせる。『戦艦ポチョムキン』の「オデッサの階段」のごとく階段から落下して死ぬというレディナの末路もこの時期のドラえもん映画としては異常なくらい壮絶だ。

サッカーのくだりやそこでののび太の発言(1+1はうんたら〜)など、「?」となる箇所は散見されるものの、概して満足度の高い佳作だった。

因果