とべない沈黙
劇場公開日:1966年2月11日
解説
「あるマラソンランナーの記録」の黒木和雄、文化映画「ピカソ」の松川八洲雄、それに「彼女と彼」の演出助手をつとめた岩佐壽彌が共同でシナリオを執筆、黒木和雄が監督した前衛映画。撮影は鈴木達夫。
1966年製作/100分/日本
配給:東宝=ATG
劇場公開日:1966年2月11日
ストーリー
ある夏の日北海道に住む昆虫狂の少年が、ナガサキアゲハを捕えた。この蝶が北海道にいるはずがないと識者たちの否定にあった少年は、蝶を石狩川に捨てた。一方長崎では、一匹のナガサキアゲハの幼虫が人にくっつき長崎を東に向って出発した。この幼虫が転々と人間の世界で接した模様はあの少年の心の反映か、愛を求めては引裂かれてゆくドラマの連続であった。萩では旧家の夫人と士族の末裔である男との肉欲的な愛が、女の底知れぬ土着的なものへの執着から男が突放される話であり。広島では被爆した少女と健康な青年の恋が、少女の突然の発病から引裂かれてゆく有様を。そして京都では、戦争で青春を失った中年男が、コールガールと愛の一夜をもちながら、強烈によみがえる戦地での愛の虐殺は、中年男の偽りの愛をも容認しないのであった。大阪では鬱積されたサラリーマンのなげやりな不毛の愛を見るのだった。そして幼虫は転々として麻薬団の暗号カバンに入り込み香港に運ばれ、幼虫自身が暗号文と間違えられて、二十億の値がつけられ横浜で取引が成功するかにみえた。横浜、東京では組織が入り乱れ大混乱となり、当局は鎮圧にのり出したが、虫の争奪戦は激しさを増していった。そして最後に虫は、偶然通りかかった男の肩にとまった。その時虫を追う殺し屋が男を狙った。虫も男も冷たいむくろとなった。夏の空にジェット機が飛び、降りた黒衣の女が、車の中でザボンを口に運ぶ。それをめがけて捕虫網をもった少年が自動車もろともすっぽりかぶせた。一瞬、網の中には一匹のナガサキアゲハがはばたいていた。少年はナガサキアゲハを最初に補った少年であった。少年は蝶を締め殺し、路上に捨てた。果して少年は本当にナガサキアゲハを捕えたのであろうか。本当に北海道にナガサキアゲハが存在したのであろうか。