殿さま弥次喜多のレビュー・感想・評価
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シリーズ最終話に相応しい徹底したドタバタ喜劇と豪華絢爛なクライマックス
中村錦之介、嘉葎雄兄弟コンビの息の合ったコメディ時代劇(殿さま弥次喜多)シリーズの第三作目にして完結編。前の二作品に副題があって、今作に無いのは珍しい。当初の企画ではシリーズ化する予定で無かったのだろう。主要スタッフに変更があったのは、前作に続いて脚本担当のみ、沢島忠監督夫妻の鷹沢和善と新たに田村弘敏という人が共作する。徳川吉宗の八代将軍就任騒動を題材に、徹底したドタバタ喜劇を展開して屈託のない笑いを振りまきます。
将軍候補になった尾州の宗長と紀州の義直が本陣を抜け出すところから、逃げる若殿と追い駆ける家臣たちの追い駆けっこ劇は全開です。牛車の荷台に隠れる錦之介と嘉葎雄を、駿馬に跨る家臣が追い越し何故か一群になって走る。荷台を飛び越える馬のカットの躍動感と、疾走する馬と馬車を下から捉えたカットの映画的なタッチがいい。また瞬時の早変わり、リアリティ無視のご都合主義な展開と、ナンセンスな可笑しさを強引に押し通す無邪気さも娯楽映画の醍醐味となり、家臣役田中春男と千秋実の惚けたキャラクターも嵌っている。このふたりのように人物配置は若殿コンビに呼応する形で構成されていて、二人の老中は第一作から変わらず、この最終話はヒロイン役の美空ひばりと丘さとみがストーリーに花を添える。映画デビュー10年を数える22歳の美空ひばりの突出した貫禄と、焼き芋屋の純情娘を好演する24歳の丘さとみの初々しさ。そして(丹下左膳)シリーズで一時代を築いた時代劇スター大河内傳次郎が仲裁屋の御大の役柄で出演、全盛期のプライドを捨て数多くの脇役を熟した晩年と知ると何処か寂しさも感じ無い訳ではないものの、独特な風格と存在感を漂わす。クライマックスは完結編に相応しく、衣装と美術が豪華絢爛。助六に扮した中村錦之介の格好良さと花魁の雪代敬子の艶やかさ。江戸市中の瓦版が特ダネ探しに躍起になる情報戦を背景に繰り広げられた、吉宗将軍誕生秘話の創作喜劇は、シリーズ一番のスケールで最後だけは史実に寄り添う。
シリーズ三作品を観て来て何より見応えがあったのは、中村錦之介の粋でいなせな時代劇演技と監督沢島忠のテンポ良い演出のキレでした。早撮り東映時代劇の娯楽映画故に、ナンセンスな面白さと意味不明の欠点が表裏一体に混在するため、評価はけして高くは無い。それよりも日本映画全盛期の、映画への情熱を感じる嬉しさが上回った。映画に夢中だった少年時代、何故か東映映画の(荒磯の波)のオープニング映像が最も記憶に残っている。それらが交じり合って、感慨深い鑑賞になりました。
これぞ日本映画を代表するスクリューボールコメディーの傑作
以前にも鑑賞しており、内容自体は把握していたのですが。今回再見して思った事は…。
「これ程までに面白かったとは…」
殿様が町人に化けて悪人を退治する…。それ自体は対して目新しさは無いのですが。とにかく沢島忠監督による、明朗快活なる東映時代劇の良さを満喫出来ますね。
中村錦之助と中村賀津雄の実の兄弟コンビによる、2人のお殿様の羽目を外した楽しさ。それに美空ひばりの瓦版屋の娘と、丘さとみの焼き芋屋さんの町娘2人が絶妙に絡んで行く。
普段ならば錦之助と丘さとみのコンビなのだが、美空ひばりが出演しているだけに彼女の相手は弟の賀津雄が担当。何度もお芋を持った丘さとみが倒れるのが可愛い。
出演者の中では、何と言っても。腕っ節はからつきし弱いのに、やたらと喧嘩の仲裁に入りたがる大河内伝次郎がやたらめったら可笑しくて館内笑い声が絶えなかった。
他の出演者では千秋実と田中春男の側近2人が、名古屋弁と和歌山弁を駆使した凸凹コンビ振りを発揮。更に薄田研二の悪役演技がもう最高!
前半から沢島コメディここに有り!とばかりに飛ばしに飛ばす。殆ど全編でてんやわんやの大騒動が展開。何度も何度もお殿様の側近達が「こりや大変だ!」とばかりに、走り回るその可笑しさ(笑)
沢島演出の楽しさと、編集のカッティングの妙が一体となり。更には、東映が誇る大美術監督井川徳道氏によるセット美術を、出演者達が縦横無尽に駆け回る。
これぞ日本が生んだスクリューボールコメディの傑作ですね。
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