「人文の反撃」独立愚連隊 因果さんの映画レビュー(感想・評価)
人文の反撃
反戦コメディと形容してしまえばそれまでだが、時折アクチュアルなホンネが垣間見えるのがよかった。主人公の荒木は太平洋戦争末期の戦場を、確かな経験と豊かな発想力で快刀乱麻を断つかのように切り抜けていく。薄ら笑いで上司に逆らったり、敢えて地獄の独立愚連隊を志願したり、どこか戦争を小馬鹿にしている節がある。
しかしそれは彼なりの精神療法であり、実際は彼もまた不条理な戦火に投げ込まれた一介の個人に過ぎない。道中で出会った19歳の志願兵に彼が「死んじゃいかんぞ」と忠告するシーンがあるが、このときの彼の表情の真剣さたるや。皮肉という精神療法、そしてそれを介して記述される『独立愚連隊』という映画すら貫通してしまう戦争のリアリズム。
戦争映画の体裁は取りつつも、そこへミステリや恋愛といった諸要素が過不足なく取り入れられていたのもよかった。なぜ荒木はある男女の戦死処理について疑念を抱くのか?裏で糸を引いているのは誰か?荒木とトミの恋の行く末は?そもそも荒木は何者なのか?
諸々の系列がこうして四方八方に展開されていくのだが、最終的には戦争という緊張感によってうまく束ねられていくのだから見事なものだ。本当の戦争においては、戦争が人間を使役するが、フィクションでは人間が戦争を使役することができる。映画内に巻き起こる諸問題をいっぺんに片付けるデウス・エクス・マキナとして戦争を引き起こすことさえできる。それはある意味で、軍事に対する人文の鮮やかなる反撃だ。
どんな感想を持たれるかは少し不安ですが、よければ「肉弾」を見てみてください。レビューがおもしろいので、自分が見たことのある映画を中心に読んで見ているのですが、「肉弾」を見て、どんな感想を持たれるのか、とても興味があります。