「少年期の漫画世界に浸りきれなく…」トキワ荘の青春 KENZO一級建築士事務所さんの映画レビュー(感想・評価)
少年期の漫画世界に浸りきれなく…
何という青春群像だろうか。
私の少年期の漫画世界の陰は見せて頂いた。
トキワ荘に集う漫画作家を目指す若者達は、
貧乏で、空腹で、出版社に採用されるか
不安の毎日だ。しかし、
それでも一部の漫画家は売れっ子になり、
トキワ荘はかなりの確率でそんな人達を
排出した奇跡的なアパートだったのかも
知れない。
しかし、
映画としては私の期待に繋がらなかった。
私も子供の頃に貸本屋の漫画雑誌を通じて
リアルタイムでお世話になった漫画家が
何人もいるにも係わらず、
誰が誰やら分からないまま話が進んだ。
それなのに、後段になってようやく
寺田ヒロオのアップと漫画が出てきたが、
何故各人のアップと作品を
前段で描かなかったのか。もちろん、
そのまままだ無名の人物そのものとして、
鑑賞することを期待した監督の意図が
あったのかも知れないが、
しかし、
各人の無名時代の作品でその人物を
特定出来るような絵を探し出して、
各人物のクローズアップと共に描くなどの
工夫があっても良かったのではないかと
思った。
また、場面転換のブツ切り感が際立ち、
作品の展開に流れが無い。
枚挙に暇がないが、例えば、
赤塚不二夫の才能が評価され
希望に胸膨らむ表情の次の場面、
誰かが退去した空っぽの部屋が映される。
誰の部屋なのかが分からないことは無い
のだが、唐突感が否めない。
部面転換の手法以上に
編集としてもブツ切り感があり、
上手い編集だったのかが疑問だ。
総じて、
人物描写や編集に上手さを感じられず、
ただただその時代の雰囲気そのものだけを
醸し出すだけに奔走したかに感じる作風に、
その時代を生きた人間としては
懐かしい作品や漫画家の想い出には
繋がらず、
私の少年期を飾ってくれた漫画世界に
浸りきれなかった想いが残った。