劇場公開日 2020年11月6日

「一体何の映画であったのか、よくわからないまま長い2時間半が終わってしまう」動乱 あき240さんの映画レビュー(感想・評価)

3.0一体何の映画であったのか、よくわからないまま長い2時間半が終わってしまう

2020年6月5日
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鑑賞方法:DVD/BD

おそらく本作は、岡本喜八監督の「日本のいちばん長い日」と対になる映画を目指したのだと思います

本作は戦争に突入していく狂気
「日本のいちばん長い日」ほ戦争をやめさせようとしない狂気

どちらも陸軍の青年将校達の心情を描いています
そしてどちらも反戦映画であるのです
本作品もまた226事変の結末を通して反戦を訴えていると思います

本作をファシズムを賛美した映画であるという批判は本作を本当に観た上のものなのでしょうか?
余りにも上面だけの批判です

第一部での軍法会議と、第二部終盤の軍法会議の相似形のシーンは明らかに軍国主義への批判です

その中での男と女の物語、命を懸けての行動の中でこそ燃え上がる熱情
それを高倉健と吉永小百合でやるのだという狙いも分かります

ですがどっちつかずになってしまっています

皇道派の青年将校達の狂気と利用されただけの哀れさを描いて反戦映画とするのか?
その中で運命に翻弄される男女のメロドラマなのか?
226事変のドキュメントをリアルに描くのか?

全部やろうとしてみんな中途半端に終わってしまっていると思います
それが残念でなりません

反戦としてのテーマ性はどうか?
利用されただけだという結末は新聞記事の見出しだけで、分かる人だけが気がつけば良いという態度です

メロドラマはどうか?
終盤の面会室での縫い上がった着物の試着のシーンは、二人が初めて男女の関係となり肌を合わせた仮縫いのシーンとの相似形になっており、実はエロチックな筈のものです
ですから続く会話シーンこそメロドラマとしてはクライマックスであるにも関わらず、高倉健と吉永小百合の二人を横顔だけで長々写しています
こここそ吉永小百合のアップと大粒の涙があるべきではなかったのでしょうか
誰に感情移入させようとしているのでしょうか?

そして226事変のリアルな再現はどうか?
迫真のセットや美術、衣装、小道具、エキストラの動員
どれも素晴らしいものですが、ごく短く駆け足のダイジェストに過ぎず、緻密なクーデター計画とそれを阻止しようとする、米倉斉加年が演じる憲兵とのエスピオナージュ合戦的なものも匂わすくらいで、まるでないのです
それ故に、計画が大願成就したカタルシスも観客たる私たちは高倉健と分かち合えも出来ないのです
そしてまた、計画が潰えた時の絶望感もまたないのです

こうして一体何の映画であったのか、よくわからないまま長い2時間半が終わってしまうのです

森谷司郎監督にしては残念な出来映えというほかありません

あき240