「国の動脈を止めぬため、民の心臓が止まる」動脈列島 しゅうへいさんの映画レビュー(感想・評価)
国の動脈を止めぬため、民の心臓が止まる
Amazon Prime Videoで鑑賞(レンタル)。
原作は未読。
当時社会問題となっていた新幹線騒音公害を題材に、新幹線破壊計画を実行しようと企む青年と、計画を阻止するべく奮闘する警察や国鉄との戦いを描いた社会派サスペンス作品。
1977年に起こった実際の訴訟は、80年に地方裁、85年に最高裁で判決が下された。国鉄側が騒音公害を訴える沿線住民に慰謝料を払うこととする内容だが、肝心の騒音に関しては、地方裁も最高裁も差し止めを認めなかった(86年に和解が成立し、公害悪化防止措置を盛り込んだ協定が結ばれた)。
健康被害を齎す騒音について、一旦現状のままとされたことに憤りを覚えた。その理由とは、経済を停滞させんがため。大勢のため小を犠牲にする形が、一時的ではあるが取られたことになる。だが経済を止めるわけにはいかぬと云う理由は断罪出来ないから厄介だ。高度経済成長の闇を感じる出来事である。
冒頭の老婆の死のシーンによって、近藤正臣扮する義憤に駆られた青年に否応無しに感情移入させられてしまった。
国の経済活動を支える動脈を止めないために、無辜の民の心臓が止まる。そんなことが許されていいのだろうか、と…
動脈列島と云うタイトルは、その点を皮肉ってつけられたのではないか、と感じさせる導入から一気に引き込まれた。
類似作品である「新幹線大爆破」との比較を避けることは出来ない。サスペンスとしては「新幹線大爆破」が上だろう。
犯人が追い詰められている印象が終始薄い。国鉄総裁の家に簡単に行けてしまったのもなんだか不思議な展開である。
クライマックスのブルドーザーを利用した作戦も、秋山の頭脳ならば二段構えの作戦に出来ただろうに。違和感が残る。
田宮二郎扮する捜査指揮官も、キレ者の雰囲気は醸し出すものの、本当に雰囲気だけで言動が勘頼りなのが残念だった。
[余談]
秋山を取り巻くふたりの女に扮した、関根(現・高橋)惠子と梶芽衣子が名演だなと思った。恋人と行きずりの女だが、このふたりの愛無くしては秋山は犯罪を実行出来なかった。
逮捕の際、秋山は恋人の胸で落涙する。東京に帰らせた梶芽衣子が不憫。しかしながら、どこか影を感じさせる女を演らせたら梶芽衣子の右に出るものはいないような気がした。
~新幹線開業60周年の日に観て~