劇場公開日 1953年11月3日

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「軍艦マーチのシークエンスⅡ」東京物語 よしたださんの映画レビュー(感想・評価)

4.0軍艦マーチのシークエンスⅡ

2014年6月11日
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鑑賞方法:映画館

悲しい

知的

今まで幾度となく観る機会のあった作品だが、劇場での鑑賞は初めて。終盤の葬式が終わったあたりから、場内のそこかしこからすすり泣きの音が。私と同じく、おそらく何度も観てきたのであろうが、やはり胸にこみ上げてくるものを抑えることは難しい。
しかし、今回は全く別のことが頭の中を占めていて、隣の幸福な観客と一緒に涙を流すことはかなわなかった。
それと言うのも、「秋刀魚の味」で気になっていた「軍艦マーチ」が「東京物語」からの引用だったことが分かったのだ。分かったといっても、どちらの作品もこれまでに何度か観たことがあるのだから、どちらにも「軍艦マーチ」が出てくることは知っていたはずなのである。
ところが、小津安二郎の作品群に特徴的な自己複製を無防備に受け入れていると、似たような映画の要素の記憶が作品間で混乱してくることが多くなる。
この軍艦マーチに関しても、泥酔した笠智衆が座り込んで歌っているシーンの記憶は鮮明に残っているものの、これは「秋刀魚の味」のものだと思い込んでいたのだ。しかしこの思い違いは仕方のないことだと言える。なぜなら、どちらの軍艦マーチのシークエンスにも東野英二郎が出てきており、しかも役の名前も同じ沼田なのだ。さらに飲み屋のマダムを死んだ妻に似ていると言うくだりも同じである。
このことから、明らかに小津は「東京」でやった軍艦マーチのシークエンスを「秋刀魚」でも繰り返していると言える。
かように軍艦マーチのシークエンスを挿入することを繰り返すのはなぜだろう。小津の作品では登場人物が戦争のことについて言及することがしばしばある。この「軍艦マーチ」のシークエンスもその一つであるが、小津の映画で戦闘シーンを再現したものを観たことがない。
「戦争」というものへの「われわれ」「日本人」の記憶。この共同幻想を彼はこの軍艦マーチのシークエンスで分節化しているのではなかろうか。

佐分 利信