「本作はバブル崩壊そのものを予言していたのです」東京上空いらっしゃいませ あき240さんの映画レビュー(感想・評価)
本作はバブル崩壊そのものを予言していたのです
1990年6月公開
バブルの絶頂期でした
正確に言うとその半年後です
東京証券取引所の日経平均株価の最高値は1989年12月の大納会の日に記録されました
つまり本作はその半年後の公開だったのです
画面からはバブル景気に沸き立つ様子があふれています
死んだのに死んでいると分かっていないヒロインが、死神を騙して現世に留まろうとするコメディです
そんな風にいくら足掻いてみても、死んでいることには変わらない
いつか必ず天国に登るほかないのです、というお話です
単なるファンタジー?
違います!
本作はバブル崩壊そのものを予言していたのです
バブル景気は半年前に死んだのです
なのにまだ生きているかのように、その死を誰も認めようとしないのです
挙げ句の果てには、不適切会計という言葉で言い換えて糊塗した粉飾決算で死神を騙して現世にしがみついた一流企業がいくつもでました
相米慎二監督は、わずか半年でバブルが死んだことを見抜いていたのです
そしてこれから何が起きるのかを見通してすらいたのです
タイトルの「東京上空いらっしゃいませ」とはどういう意味かもうお分かりでしょう
東京は、上空の天国に早くいらっしゃいということです
バブル崩壊を認めて早く手仕舞いしなさい
そうすれば東京は天国に行けるということです
そして死神を騙して死んだ事をごまかしているなら地獄に落ちることになるということです
果たして東京は数年後地獄の一歩手前までいったのです
地獄の釜の蓋が開いたのを目撃したのです
幸いに釜の中に放り込まれるまえになんとか踏みとどまる事ができたのです
その過程でどれだけ多くの人々が苦しんだことでしょうか
牧瀬里穂は公開当時18歳
本作の半年前、そうバブルが本当の絶頂を記録した1989年12月に流れた伝説のCM JR東海「クリスマス・エクスプレス」で注目を浴びたばかりでした
このCMは未だに人々の記憶に大きく刻まれています
彼女が可愛いかったから?
そのCMに使われた山下達郎の楽曲が恐くマッチしていたから?
もちろん、それもあります
でも本当の理由はバブルの絶頂の瞬間をものの見事に切り取っていたのだと思うのです
そのその彼女をヒロインに据えてバブル崩壊の映画を撮る
相米慎二監督のなんという恐るべき慧眼なのでしょうか!
本作は近年何故か視聴困難になっています
残念でなりません
再評価されるべき傑作です