天使のはらわた 赤い教室のレビュー・感想・評価
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曽根中生監督の映画愛が感じられる、にっかつ映画の佳作
曽根中生監督の映画愛が感じられた。
確かな演出技巧を持って、ポルノ産業に対する皮肉と情愛を絡ませながら描いている点が、とても面白く興味深かった。そこには、性描写を粘り強く表現しなくてはならない使命感と、劇映画にまとめる作劇の努力の葛藤がある。ひとりの女性を探し求める男の哀切なる心情を執拗に描いたストーリー。現在のロマンポルノの中に、古風なメロドラマを試す映画狂の特質を発見する驚きがあった。この脚本と演出に、主演水原ゆう紀の好演。観て良かったにっかつ映画になる。
1980年 2月19日 ギンレイホール
本作もまた70年安保闘争のトラウマを反映している
日活ロマンポルノ
昭和の淫靡さ、貧乏臭さもまたフィルムの中に閉じ込められている
そこも味だ
家庭用ホームビデオが普及する以前、男性達の性的欲求の捌け口は、場末の劇場で上映されるピンク映画か、本作劇中の様な非合法のブルーフィルムを細々と隠れて見るものしかなかった
エロ本なら、非合法なものも水面下で売られてはいたが、本作で登場する様な自主規制でギリギリのものなら全国の書店などで売られており誰でも買えた
だから映画も映倫の自主規制の枠の中で合法化したエロ映画をピンク映画の様に細々とではなく、全国の配給網に供給するというのは、斜陽産業と化した日本映画界で、会社存続の為の方策の一つなのは間違いない
なにしろライバルのテレビでは放送できないものからだ
清く正しくを社是とするライバル映画会社も真似はできない
今風に言えばブルーオーシャン戦略だ
だから求められるものは、基本男性達の性欲の捌け口たる映画であって、劇中で登場人物が語る様に、そこに芸術や政治的なものは不純物なのだ
しかしそのエロ映画であるという基本を押さえつつ、ドラマを追い求めたのもこの日本ロマンポルノの特徴だろう
ドラマという不純物を徹底的に排除したものが、現代に溢れているAVになるのだ
AVの中にもドラマを忘れない作品も中にはあるかも知れない
それはいまや貴重な日本ロマンポルノの末裔だろう
本作はその不純物がある
しかしエロ映画としても成立させている
むしろ不純物自体が本作を観る価値と意義と意味をもたらしている
本作の原作は石井隆のエロ劇画
読んだのは遥か昔のことで何もかも覚えていないが、画力のある緻密な描画、映画的な構図は印象に残っている
本作にはその原作者が脚本に参加しており、彼の劇画の雰囲気を思い出させる感覚がある
原作者は1946年生まれの団塊の世代
そして観客もまた、30代にさしかかろうとういう団塊の世代
本作もまた70年安保闘争のトラウマを反映している
名美は70年安保闘争の理想なのだと捉えれば、すぐに隠されてある意味合いが本作に深みをもたらしていることがわかる
若く美しい清純な名美は、男達に暴行されブルーフィルムに撮られてしまい汚される
もちろん、70年安保闘争と激しい学園運動の敗北の記憶だ
終盤ではセーラー服の女子高生が名美の目の前でかっての自分の様に男達に暴行される
名美がそれを見る視線は、60年安保世代が70年安保闘争の結末を見る、60年安保世代の監督の視線だ
そしてまた団塊の世代の鎮魂歌であるのだ
雑誌編集者の村木も、演歌歌手崩れのバーの男も団塊の世代であり、青春の理想を深く追い求めた挙げ句、世間から落ちこぼれたのだ
気が付けばもう若くもないのだ
パッとしない行く末が見通せてしまう歳なのだ
村木は3年後の設定で、別の女と所帯を持って赤ん坊まで産まれて、小市民的な幸せな家庭の中にあると描かれるのだ
しかも不倫相手でエロかった女が、いまではすっかり落ちついた家庭的な主婦なのだ
バーの男は最早惨めな未来しかないだろうことも
これだけのことをエロ映画に投影することで、本作は俄然当時の団塊の世代の人々の胸を震わせ激しく共感させる作品になり得たのだ
水原ゆう紀、蟹江敬三の演技も素晴らしく、演出も目を引くシーンが多い
若い男が名美に旅館に連れ込まれで、何度も迫られる内に女の怖さを味わうシーンは見事だ
21世紀の現代の人々でも楽しむことができるレベルのものだ
退屈退屈超退屈
評判が良かったがひどかった。ストーリーも退屈だが演出がまた輪をかけて退屈。引いたカメラで芸術性でも醸し出しているつもりかもしれんが退屈さが増長されているだけ。そのほかの演出も全て素人騙しで白ける。
シリーズ中最強の名美
シリーズ3作品を鑑賞したが、その中では最強の名美だと思う。他の作品から思うと視点は「村木」にあり、「名美」側ではない。ただひたすら「名美」を追い続ける「村木」。このシリーズのプロトタイプになるのだろう。また、自分が観たシリーズで共通することは、名美と村木の出会いはいずれも「メディア」だった。ブルーフィルム、女性向け週刊誌、ビニ本等。曽根中生の昭和四畳半的演出も悲しみを助長する作品。
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